新人の5月病どう防ぐ 「けちなのみや」でチェック

新人の5月病どう防ぐ 「けちなのみや」でチェック
産業医・精神科専門医 植田尚樹氏
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO44763390U9A510C1000000?channel=DF120320194898&nra

『社員がいきいきと働き、高いパフォーマンスを発揮する職場をつくるには何が必要か。産業医として多くの企業で社員の健康管理をアドバイスしてきた茗荷谷駅前医院院長で、みんなの健康管理室代表の植田尚樹医師に、具体的な事例に沿って「処方箋」を紹介してもらいます。

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ゴールデンウイーク(GW)明け、何となく気分が晴れないという人もいるかもしれません。いわゆる「五月病」はこの時期、心身の不調、倦怠(けんたい)感にさいなまれる状態を指します。正式な病名ではありませんが、大型連休明けにこうした症状を示す新人社員や新入生が見うけられることから、こう名付けられたようです。

その多くは新しい環境に適応できないことに起因するものと考えられます。希望に胸を膨らませて入社したものの、やりたい仕事に就けなかったり、上司や先輩との関係に気を使ったり、悩みは尽きません。ようやく自分の時間を持てた大型連休に、改めて思い悩んだ結果、働く意欲が減退し、ひどい場合には会社へ行けなくなり、ついには離職に至るケースもあります。

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ある大手企業の男性新入社員の事例です。5月の連休明けから落ち込む症状が続き、仕事にも集中できないと人事部門に訴え、産業医と面談することになりました。大学時代は体育会に所属するなど活発なタイプ。営業部門を志望していたところ事務部門に配属されたそうです。

五月病は5月だけではない
思い描いていた仕事とは異なるうえ、指導役の先輩社員が突如異動となり、1人取り残されてしまいました。不安が高まるにつれて、「何となく自己嫌悪になってしまった」というのです。

このような症状が表れたときには、職場の上司や同僚、産業医に相談してください。仕事ばかりの生活スタイルにならないように、趣味や勉強などに力を入れるのもいいかもしれません。ただし、落ち込みや不眠などの症状が続く場合は精神科の受診を勧めます。前述の新人も現在は精神科でカウンセリングを受けています。

こうしたケースは何も5月に限られたものではなく、むしろ1年を通じてみられるようになっています。このため最近では、「五月病」とは呼ばなくなってきています。

せっかく採用した人材の離職は会社にとってのリスクです。ただ、離職を防ぐための対策は極めて難しいのが実情です。

ある食品メーカーは離職防止の観点から「新人にはゆっくりしっかり仕事に慣れてもらおう」と、前年まで3カ月だった新人研修を延長。1年をかけて製造から販売まで、あらゆる職場で研修を重ねてもらったそうです。ところが結果は意に反したもので、離職率が高まってしまったというのです。どうやら新人たちは早く現場に出て、仕事を任せてもらいたかったようです。

活用したい「仕事のストレス判定図」
こうした離職を防ぐうえで、もっと活用されるべきだと私が考えているのが「仕事のストレス判定図」です。

2015年に労働者50人以上の事業所に対して、社員の心理的負担を検査する「ストレスチェック」が義務化されました。判定図は厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」による個々の調査結果を職場ごとに集団分析してグラフ化したものです。

グラフは2種類あり、ひとつは「仕事のコントロール(裁量や自由度)」と「仕事の量的負担」、もう一つは「同僚の支援」と「上司の支援」をそれぞれ縦軸と横軸にとったものです。

これをみると、裁量が低く量的負担が大きいほどストレスは高く、同僚や上司の支援が少なければ少ないほど、ストレスは高まることが一目瞭然です。

逆にいえば、仕事の量が増えたのなら裁量を広げることでストレスは軽減されるというものです。あるいは、上司や同僚の支援を増やしてやることで負担を軽くできることを示しています。

グラフ中の数値は「健康リスク」。数値が高いほどリスクが高いことを示す。グラフではリスクの高低を赤から白へのグラデーションで示している。(出典:厚生労働省資料)
まずはあいさつから始めよう
判定図が示しているように、上司や同僚との関係が職場の環境を大きく左右します。

ある製造業の事例です。事業所を訪れてみると何となく暗い雰囲気で、あいさつの声も聞こえません。ストレスチェックで集団分析をしてみると、かなり危機的な判定結果となりました。総務部門の担当者から「どこを直したらいいですか」と尋ねられたので、「職場の雰囲気づくりが大切です。まずはあいさつから始めましょう」と助言しました。ところがです。翌年「今年もストレスチェックをやりますか」と問い合わせたところ、その担当者はすでに退社していました。

ただ、こうした職場の雰囲気は決意次第で変えることができます。

あるメーカーの工場では、集団分析で非常に悪い結果が出ました。そこで職場の責任者が一念発起。部下たちに意識して声がけしたり、気軽に相談に乗ったりしたところ、わずか1年で判定が劇的に好転したそうです。ストレスチェックとは異なり集団分析は義務ではありませんが、その意義を十分に理解して、活用すれば大きな効果が期待できるはずです。

メンタル不調の問題のひとつに、本人が自身の症状になかなか気づかないという点があります。まず気をつけてほしいのが不眠です。次に仕事でミスが増えていないか、人の話を聞いて頭に入ってくるか。こうした症状がある場合は放置してはいけません。周囲に相談したり、医師に診てもらったりしてください。

けちなのみや
周囲が早くから兆候をキャッチしてあげることも大切です。同僚の不調を捉えるための標語「けちなのみや」をご存じでしょうか。

「欠勤が多い」「遅刻が多い」「泣き言をいう」「能率が悪い」「ミスが多い」「辞めたいと言い出す」――の頭文字をとったものです。

この6つのポイントに注意を払えば、比較的早期に対応することができるでしょう。ただ、最近はフレックス制や裁量労働制の採用が増えているので、以前とは異なり勤務実態が把握しづらいという問題もあります。

最後に部下や同僚の相談に乗るときの注意点です。

まず相談に応じるのは、自身が十分な時間を確保できるときにしてください。相談時間が短かったり、不十分であったりすると、「取りあえず、お座なりに処理された」と受け止められかねず、不信を招く恐れがあります。十分に時間をとり、ゆっくり話を聞いてあげることが必要です。

「でもね」「だけどさあ」は厳禁
相談の際は自らの主観を挟まぬように注意してください。「でもね」「だけどさあ」などと口にしてはいけません。相手が何が言いたいのか、何を伝えたいのか、耳を傾けてください。相談を持ちかけられた人間が主張する場ではないのですから、「傾聴」する姿勢を忘れないでください。

相談の結果、結論や解決につながらなくても、不安や悩みを言葉にすることで考えが整理され、不安が軽減される「カタルシス効果」も期待されます。

いずれにせよ、必要とされるのは上司、同僚、部下と気軽にコミュニケーションがとれ、困ったときには互いに協力し合える職場づくりです。まず第一歩として、声をかけあい、あいさつをすることから始めてはいかがしょうか。そうすることで、一体感や安心感が増すなどして、職場の雰囲気も変わってくるはずです。

※紹介したケースは個人が特定できないよう、一部を変更しています。』