米中、メコン川「管理」巡り対立 東南アに影響力競う

米中、メコン川「管理」巡り対立 東南アに影響力競う
東南アジア
2020/9/8 18:00
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63583320Y0A900C2FF8000/

『【バンコク=岸本まりみ】東南アジア最長の河川、メコン川の管理を巡り、米国と中国が対立している。中国は降水量や水位などの情報を流域国と共有する新たなデータベースを年内に設ける方針を表明した。日米欧が支援する流域の多国間組織は反発し、米国は11日に流域国との協力の枠組みを創設する。東南アジアへの中国の影響力拡大を防ぐ狙いだ。

ポンペオ米国務長官は11日、オンラインで参加する東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合の一環として「メコン―米国パートナーシップ」という閣僚級の枠組みの初会合で共同議長を務める。

参加予定はメコン川流域のカンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの5カ国の外相とASEAN事務局長。米国主導のメコン下流域開発(LMI)を通じて2009年から続けてきた開発協力を発展させる。

全長約4200キロメートルのメコン川は中国を始点に東南アジア5カ国を巡り、南シナ海に注ぐ。上流の中国、ラオスでは治水や発電のためダムを多数建設。下流域のタイ、ベトナムで、水量が主要な輸出品であるコメの生産を左右する。企業のサプライチェーン(供給網)構築に向け架橋を含む輸送路の整備が進められ、アジア開発銀行(ADB)も支援してきた。

米国が意識するのは中国のメコン川進出だ。

中国の李克強(リー・クォーチャン)首相は8月24日の演説で、メコン川の洪水、干ばつに対応するため流域国とデータを共有するプラットフォームを整備すると明かした。治水や農業に必要な水資源管理の基礎になる降水量、水位などの情報をインターネットを通じて共有し、管理に役立てる仕組みだとみられる。

李氏が演説したのはオンラインで開かれた「瀾滄江(らんそうこう)―メコン川協力(LMC)」の第3回首脳会議。LMCは15年、中国が流域5カ国と始めた協議体だ。メコン川は中国で瀾滄江と呼ばれる。李氏は「同じ川から水を飲むメコンの国々は家族のようだ。水資源を巡る協力を新たな高みに引き上げる必要がある」と指摘した。

これまで中国は洪水が頻発する6~10月ごろに上流のデータを公表するだけだったが、19年から続いた干ばつ後に方針を変えたようだ。タイ、ベトナムの不作でコメの国際価格が急上昇。米国はメコン川の水量減の主因が中国のダムだと主張した。中国は異常気象が原因で、米の主張は「根拠がない」と反論する。

安全保障問題に詳しいチュラロンコン大(タイ)のティティナン准教授は「中国は情報共有を提案して(流域5カ国への)影響力を強めようとしている」と指摘する。中国は流域国のインフラ整備のため多額の投融資を実施してきた。中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」の一環でもある。

ラオス南部を流れるメコン川

一方、日米欧が支えてきた多国間の枠組み「メコン川委員会(MRC)」は反発。李氏の演説の翌日には事務局が「中国のデータ共有は歓迎するが、(MRCによる)既存のプラットフォームの利用を提案する」という内容の声明を出した。

MRCは1995年にミャンマーを除く流域の東南アジア4カ国で成立した。中国のLMCとメンバーが重複するが、開発に関する日本などの資金協力を受け入れる組織として活動してきた。

MRCは米国の支援を受け、水位などのデータ共有、洪水や干ばつを予測するシステムを稼働させてきた。アン・ペイ・ハッター事務局長は「足りないのは上流国のデータだ」と主張する。中国に対しては新たなデータベースの整備でなく、MRCのプラットフォームを充実させるための情報提供を求めた格好だ。

9日からベトナムを議長国として開く一連のASEAN関連の閣僚級会合は、南シナ海を巡る米中の「対決」が大きな焦点になる。両国はそれぞれ、南シナ海に近く、同海域の情勢を大きく左右する東南アジア諸国を自国の陣営に取り込もうと競っている。その争いが東南アジアの豊かさの源泉の一つでもあるメコン川にも及んできた。』