投資、設備から人材へ 日立が全16万人にDX研修

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『日本企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた社員の再教育に乗り出す。三井住友海上火災保険は約5千人の営業社員にデータ分析の研修をする。日立製作所もグループ全16万人にデジタル教育を始めた。モノの販売が中心の時代は投資対象も設備が中心だった。データや知識が富の源泉となるデジタル時代を迎え、人材への投資にシフトする動きが強まる。

海外に比べて日本は人材投資で出遅れている。企業が従業員の能力開発に支出する費用をみると、国内総生産(GDP)に占める割合は14年までの5年間平均で0.1%。米国(2.08%)やフランス(1.78%)に比べて大幅に低い。

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製造業がけん引する日本の産業は終身雇用や年功序列の人事評価を前提に、一括大量採用した新卒を職場内で訓練してきた。企業の投資先は工場や各地の営業拠点など有形の設備が中心だった。デジタル革命が本格化するなか、人材に投資しないと時代に取り残される懸念が高まっている。

三井住友海上は2021年から、保険の取引先108万社と地方自治体向けに自動車事故や自然災害などのデータの販売を始める。保険の外回りの営業担当者をデータ販売も同時に手掛けるデジタル人材に再教育する。

東洋大学や京都先端科学大学と連携し、3~10日間のプログラムを用意した。社員は業務として無料で受講できる。ドローンやウエアラブル端末を使ったデータの取得方法などを学ぶ。

まず来年3月末までに600人が受講し最終的には正社員の約4割にあたる5500人の営業社員全員が受講する。営業拠点などのスリム化で浮いた財源をまわし、デジタル人材育成への投資額を21年度は20年度比約1.5倍に増やす予定だ。

日立は4月からDXへの対応策として国内グループ全16万人を対象に専門研修を始めた。製造業からデータ活用などを軸とした企業への転換をめざしており、社員にはデータの選別や解析など1回あたり30分~2時間程度のウェブ学習を年間を通して実施する。

21年度からはジョブ型雇用を本格導入し、社員の仕事内容や必要な能力をジョブディスクリプション(職務定義書)で明確にする。個々の社員が学ぶべきスキルが分かるため、ジョブに対応した研修も拡充して補う。

富士通も20年度からAI(人工知能)やプログラミングなど約9千の無料講座をネットで配信し、国内のグループ全8万人が自由に受講できる。スーパーコンピューター「富岳」の責任者など専門的な社員による独自講座も用意し20年度の社員教育への投資額を19年度の2倍に増やす。

新型コロナウイルスの感染拡大を機に在宅勤務が増え、デジタル技術の活用が一段と重要になるなか、人的投資を増やす機運が高まりそうだ。

成果で人を処遇する傾向が強い米国企業は社員への教育も手厚い。米アマゾン・ドット・コムは25年までの6年間で米国の従業員10万人の再教育に7億ドル(約740億円)を投じる。一般職社員がエンジニアになるための講座や機械学習の授業を提供する。米グーグルはオンラインでデータ分析技術などを学べるプログラムを実施している。

足元では新型コロナウイルスの問題で苦境に陥る業種が出ており、社会のデジタル化で産業構造もかわりつつある。バブル期に大量採用した中高年の新たな技能習得が急務で、若者にとってもスキルを向上できる職場かどうかが職選びで重みを増す。人材の高度化と成果主義が進めば、雇用の流動化が促され産業の新陳代謝も活発になる。

昭和女子大学の八代尚宏副学長は「デジタル時代は技術を使って価値を生み出す人的資本の育成が重要だ」とし、「会社を休んで学ぶ人を金銭的に支援する教育版の育児休業のような制度も欠かせない」と指摘する。』