日本がファイブ・アイズの一員に簡単にはなれない理由

日本がファイブ・アイズの一員に簡単にはなれない理由
ジェームズ・ブラウン
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/090800199/?P=1

※ 多分、この人だろう…。違っていたら、ごめんなさい…。

※ この人は、例のスクリパリ氏の娘…。なんとか、一命は取り留めたようだ…。ナワリヌイ氏の事件にもあるように、「諜報活動」となると、生命(いのち)に関わる「剣呑な事態」も覚悟しないといけなくなる…。そういうことに、耐えられる「組織」なり、「人材」なりは、育成して行くことができるのか…。まず第一、「国民的な合意」は、形成できるのか、内閣の一つ、二つが飛ぶような話しだろう…。

『河野太郎防衛相が日本経済新聞(8月15 日付)とのインタビューで「ファイブ・アイズ」*との連携拡大に意欲を示した。ファイブ・アイズは、米英などアングロサクソン系諸国による機密情報共有のフレームワーク。両国に加えて、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国で構成する。「日本も近づいて『シックス・アイズ』と言われるようになってもいい」

*:米英などアングロサクソン系諸国による機密情報共有のフレームワーク。両国に加えて、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国で構成する。
 中国の影響力拡大に対処するために、米国の同盟国がより緊密な協力体制を築くのは歓迎すべき目標だ。しかし、もし日本が本当に「シックスス・アイ(6番目の目)」として見られるのを望むならば、日本の機密情報保持の文化と能力に大幅な変更を加える必要がある。

河野防衛相の甘すぎる見通し
 もちろん、日米間の安全保障協力には長い歴史がある。近年、日本とファイブ・アイズの他のメンバー国との間でも、海軍艦艇の来日など安全保障協力が進んでいる。こうした動きは、中国と北朝鮮の軍事的脅威に関する共通の懸念に基づいている。河野氏は、安全保障協力と同じように、機密情報共有の分野でも、日本とファイブ・アイズのメンバーは協力を容易に拡大できるという考えを示した。「椅子を持っていってテーブルに座って『交ぜてくれ』と言うだけの話だ」

だが、河野氏の見方は楽観的にすぎる。このコメントは、日本とファイブ・アイズとの間に横たわる障害を深刻なまでに過小評価している。

 ファイブ・アイズは、メンバー間の信頼が高いことを特徴とするグループだ。この信頼は、メンバーが第2次世界大戦の経験を共有する中で発展した。言語が共通であるとともに文化も似ているため、関係は密接だ。この深い信頼があるからこそ、他の同盟国との間よりも高いレベルの機密情報の共有が可能になる。未加工の情報もファイブ・アイズ内で共有される。

 率直に言って、グループのメンバーが日本に対してこの高いレベルの信頼を持っていると言うにはほど遠い。具体的には、ファイブ・アイズへの日本の参加を妨げる大きな障害が3つある。

スパイ防止法の制定が欠かせない
 まず、日本は敵のスパイ活動に対する防御力が弱いと見られていることだ。冷戦時代にKGB*のスパイとして日本で働いたスタニスラフ・レフチェンコ氏は、1979年に米国に逃れ「On the Wrong Side」という本を書いた。ソ連(当時)が日本で行ったスパイ活動をつまびらかにする内容だ。その中で、日本は真のスパイ天国だったと述べている。ソ連は主要新聞社、外務省、および日本社会党の中で日本人のエージェントを何人も雇っていた。さらに、労働大臣を務めた自民党の石田博英氏もソ連のエージェントだったと記している。

*:旧ソ連の情報機関。国内外でスパイ活動をつかさどった
 こうした状況は近年、特定秘密保護法の制定によりある程度改善したが、依然として問題を抱えている。ファイブ・アイズは、機密情報が中国やロシア、北朝鮮に漏れる懸念があれば、それを日本と共有しない。グループ内ではすでに、ニュージーランドの脆弱性についての懸念がある。メンバーは、機密情報を共有するチェーンにもう一つの弱いリンクを追加することを望まない。

特定秘密保護法が2014年に施行されたことで、日本への信頼は幾分高まった。しかし、日本にはまだファイブ・アイズのメンバー諸国が定めているセキュリティークリアランス(適格性評価、秘密情報を扱う担当者に対して、その適格性を確認する)制度に匹敵するものがない。霞が関の省庁には、機密情報へのアクセスの可否を職員ごとに定める手続きが存在する。けれども、防衛産業をはじめとする民間企業は対象になっていない。このためファイブ・アイズのメンバー国は、日本の公務員から民間企業を通じて、好ましくない外国に情報が伝わることを恐れている。したがって日本は、政府だけでなく民間企業にも適用する、セキュリティークリアランスの厳格なシステムを導入する必要がある。

 同制度における認証は、ファイブ・アイズのメンバー間で相互に認めあっている。また、ある個人がいったん認証を得ると、政府と民間機関の間を移動した場合にも、認証を維持することができる。

 さらに、日本にはまだスパイ防止法がないことも問題の1つだ。秘密情報を窃取したと判明した日本人および外国人に対して、より厳しい罰を与える法律だ。自民党は1985年にスパイ防止法案を国会に提出したが、野党が強く反対し成立しなかった。加えて、日本政府は現在サイバーセキュリティーの改善に取り組んでいるが、この重要な分野ではまだ後れを取っていると見られている。

価値ある機密情報を提供できるか
 第2の障害は、海外で機密情報を収集する能力が日本には不足していることだ。日本はファイブ・アイズとより緊密に連携することで、質の高い機密情報にアクセスできるようになる。しかし、見返りとして、ファイブ・アイズのメンバーは何を手に入れることができるのか?

 日本は、通信・信号を傍受するシグナルズ・インテリジェンス(SIGINT)の分野ではいくつかの強みを持っている。例えば、日本には他国の軍事通信を傍受する施設の広範なネットワークがある。北海道の稚内から沖縄県の石垣島にかけて、これらの施設は中国、北朝鮮、およびロシアの軍用機や海軍の艦船の動きと通信内容について有用な情報を収集している。

 しかし、人間が収集する情報の分野(HUMINT)では、日本の能力は比較的低いと見られている。全体として、現時点では、日本がファイブ・アイズに提供する情報の価値が、日本をファイブ・アイズに加えることで拡大するセキュリティーリスクを上回るかどうか不明だ。日本を加える価値をメンバー諸国に納得させるためには、日本が機密情報の受け手になるだけでなく、その提供者にもなれることを示す必要がある。特に中国、北朝鮮、ロシアについてファイブ・アイズがまだ知らないことを、日本は知っていると実証すべきだ。

日本は真に同じ外交価値観を持っているか
 第3の障害は価値観に関することだ。ファイブ・アイズは機密情報を共有するグループであるだけでなく、政治信条を共有するグループでもある。価値観の共有が重要なのだ。

 日本とファイブ・アイズのメンバーは民主主義国として似た価値観を持っているが、その価値観は全く同じではない。ファイブ・アイズのメンバーは、民主主義と人権は普遍的な価値であると信じており、外交政策を通じてこれらの価値を世界中に広めようとしている。これには、権威主義体制を批判することも含まれる。

 日本の政治指導者たちは、価値観外交の重要性を指摘することが時折あるが、たいていの場合、他国の内政を批判する行為を控えている。つまり、権威主義国が人権侵害や民主主義の欠如を示す行為に及んでも、それを批判することはない(「『米中2極による新冷戦』は大いなる間違い」)。

 権威主義国の内政を批判するかしないか、どちらが適切なのか議論する余地はあるだろう。ただし、ファイブ・アイズのメンバーの目には日本が異質な存在に映る。

 例えばファイブ・アイズのメンバーは、中国が香港に国家安全維持法を適用することに強く反対した。英国と米国は、香港の人々が中国政府の抑圧から逃れ自国に渡るのを容易にすべくさまざまな政策を承認した。

これに対して日本政府は、香港の状況について「重大な懸念」しか表明していない。さらに、日本政府は、香港で暮らす一般の人々への支援よりも、香港の金融機関に対する支援を優先しているように映る。これらの企業の東京、大阪、福岡への移転を誘引することで、香港の状況から利益を得ようとしているようにも見える。

 ファイブ・アイズと日本の外交に根本的な違いがあることが最も明確となる例は、対ロシア外交だ。ファイブ・アイズのメンバーはすべて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が率いるロシアを深刻な脅威と認識している。ロシアが2014年にクリミア半島を武力によって併合した後、メンバー国は強い制裁を科した。

日本はロシアの外交官を追放しなかった唯一のG7国
 加えて、ロシアの民主主義および人権をめぐる状況が着実に悪化していることを批判している。特に、米国、カナダ、英国はマグニツキー法を成立させている。人権侵害や汚職を犯した、ロシアやその他の権威主義国の当局者に制裁を適用できるようにする法律だ。ロシアの公務員による不正を告発したことで逮捕され、暴力に苦しみつつ刑務所で亡くなった人物にちなんで名付けられた。

 欧米諸国がロシアを孤立させるべくさまざまな取り組みを試みたのと同じ時期に、安倍政権はロシアへの関与を強めた。13年4月~19年9月に、安倍晋三首相はロシアを11度も訪問した。また、自民党は18年、プーチン政権の与党である統一ロシアと協力協定を締結した。安倍首相は、8項目の経済協力プランを通じて、日本企業にロシアへの投資を奨励した。

 ファイブ・アイズ側から見ると、安倍首相が進める対ロシア外交で最も衝撃的だったのはスクリパリ事件への対応だった。ロシアのスパイが18年3月、英国のソールズベリーでセルゲイ・スクリパリ氏という元ロシアのスパイを、神経剤を使って殺害しようとした。スクリパリ氏と娘は、どうにか生き延びたが、その後市民の1人が巻き込まれて死亡した。

 この攻撃の後、ファイブ・アイズのメンバーを含む29カ国が、英国にならって合計153人のロシアの外交官を追放した。英国の首相と外相はこの取り組みに加わるよう日本にも要請したが、安倍政権は拒否した。日本はG7(主要7カ国)において、ロシアの外交官を追放しない唯一の国となった。

 この事件は、ファイブ・アイズのメンバーと日本の外交政策の違いをはっきりと浮き彫りにしている。このような違いは、機密情報を共有するのに不可欠な信頼を損なう。

 将来、日本がファイブ・アイズとより緊密に協力できるようになるのは不可能ではない。しかし、その前に日本は防諜(ぼうちょう)能力と情報収集能力を改善する必要がある。さらに、信頼を築くため、日本はその外交政策を、権威主義国家の人権侵害を批判するファイブ・アイズのメンバー諸国のそれに近づけるべきだ。

 以上に挙げた大きな障害は短期間で乗り越えられるものではない。10年から20年ほどかかってもおかしくない大手術だ。日本にとってファイブ・アイズとの連携拡大は、単に椅子を持っていってテーブルに座るよりもはるかに難しいのである。』