[FT]イラン 米制裁に対抗 中国との包括的協定を模索

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63564380Y0A900C2000000/

『テヘラン中心部にあるイラン外務省の玄関に掲げられた青いタイルには1979年のイラン・イスラム革命以来の外交政策を示すモットーが記されている。「東側でも西側でもなく、イスラム共和国として」

握手するイランのロウハニ大統領(左)と中国の習近平国家主席(2014年上海で)=ロイター

しかし、イランを統治するイスラム教聖職者たちは米の制裁に苦しみ諸外国との関係改善を模索するなかで、戦術を変更しつつあるようだ。中国と「重要な戦略的パートナー」になるための「包括的な」25年に及ぶ協定に向けて動いている。

■米国は18年に核合意から離脱

6月に内閣が承認した協定案は、まだ中国との調印には至っていない。米制裁に加え、欧州が2015年の核合意の支持にあまり力を入れていないと感じているイランは、中国に近づくことで自国と自国経済の地位向上を目指している。核合意ではイランが核開発計画を制限する見返りに制裁が緩和されることになっているが、18年に米が離脱して以降機能していない。

西側を敵視するイラン保守派にとり、中国とロシアは、歴史的に経済関係の深い欧州への対抗勢力となりうる。

「イランは孤立していないというのが西側への政治的メッセージだ。『うちの娘に有力な求婚者が現れた。結婚するぞ』と叫び、西側諸国が飛んできて結婚を阻止しようとするか試すようなものだ」と強硬派に近い政府内のある人物は話した。

「もし西側、特に欧州がやり方を変えれば解決策を探れる。そうでないなら他に選択肢はなく、イランは中国とこのゲームを続ける」

■中国はイランの内政に干渉せず

通常は欧州寄りの改革派も核合意の件で失望しており、中国との関係強化を支持している。「長い時間をかけて中国はイランの政治的安定や安全保障、独立性に干渉せずに足場を固めてきた」と改革派のアナリスト、サイード・レイラズ氏は指摘した。「中国は、イランの内政に干渉する傾向がある米やロシアとは異なる」

フィナンシャル・タイムズ(FT)が入手した18ページの協定案にはエネルギー、石油化学、テクノロジー、軍事や海洋プロジェクトなど広範囲での協力の可能性が示唆されている。地元メディアは中国軍の兵士がイランに派遣され、イランが島を中国に貸し出すと報じており、反対する勢力は関係強化で独立性が失われると不安をあおっている。しか協定案にはこれらの詳細は見当たらなかった。

米制裁下でイランと取引できるのは米国で事業を行っていない中小企業だけであり、中国がイランの最大の貿易相手となっている。イラン税関当局によると、3月に終わったイラン暦前年のイランと中国の二国間貿易額は207億ドル(約2兆2000億円)とイランの貿易総額の約4分の1を占めた。アラブ首長国連邦などから再輸入された中国製品は含まれていない。

政府が望む中国との貿易拡大には米との関係改善が必要だとイランの実業家は指摘する。米制裁発動後、中国や欧州の企業はイランから撤退した。

「今回の協定はイランにとっては政治的決定だが中国にとってはビジネス上の決定であり、制裁が続く限り中国は重要なことは何もできない」と中国と取引があるビジネスマン、ペドラム・ソルタニ氏は話した。「中国の大手金融機関や銀行、大企業はイランに投資して米市場での権益を危険にさらしたりしない」

7月には中国外務省の趙立堅副報道局長が、両国は「伝統的友好関係」にあり「二国間関係の発展について話している」と話した。中国の習近平国家主席は16年にイランを訪問している。

■イランの地理的位置が中国に重要

また英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)のユー・ジエ上級リサーチフェローは、イランの地理的位置が中国にとり「戦略的に重要」だと指摘した。特にパキスタンと国境を接しており、「中国・パキスタン経済回廊」を通じてインフラ事業を行っている中国にとって「イランは非常に重要な中継地点として機能する」とも話した。

すでに二国間協力の兆候が数多く現れている。中国はイラン産原油の最大の輸出先だ。イランのアナリストはイランが安定した原油市場を求める一方、中国は時に緊張が高まるホルムズ海峡をタンカーが安全に航行できる保証を求めていると指摘する。

匿名を条件に取材に応じたトラック運送会社幹部は、今年に入り中国からの輸入が倍増しており今後も増加するとの見通しを示した。またテヘランのハナチ市長は7月、市内の地下鉄向け車両630台の購入について中国と交渉中だと明らかにした。ライラズ氏は「イランのバス会社は夜に独メルセデス・ベンツの車両を購入する夢を見るかもしれないが、朝目覚めれば中国のバスしか買えないという現実に気づく」と話した。

地元アナリストは11月の米大統領選や来年のイラン大統領選の結果にかかわらず中国との協定は来年調印されると予想する。しかし協力の範囲は米との交渉にかかっている。

「中国はあらゆる分野での暫定的合意に調印するだろう」と前述の政府関係者は話し、中国の投資が原油輸出とひも付けられる可能性を指摘した。「中国は米制裁が解除されるまでこのゲームを続け、解除された時には恩恵を享受できる最前列にいたいと思っている」

イランは大国を信用していないが、米を「巨大なオオカミ」、中国を「アリの大群」と見ていると、この人物は話した。「どちらも我々の貯蔵庫を食い尽くす。しかしオオカミを見れば恐怖に震えるが、アリはそれほど恐ろしくない」

By Najmeh Bozorgmehr

(2020年9月6日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)』