日清食品、「1兆円クラブ」入り 導いたのは値上げ力

日清食品、「1兆円クラブ」入り 導いたのは値上げ力
証券部 鈴木孝太朗
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63537580X00C20A9000000/

『日清食品ホールディングスの時価総額が今年の夏に節目の1兆円を上回り、明治ホールディングスやキッコーマンなどと並ぶ「1兆円クラブ」入りを果たした。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う巣ごもり需要で即席麺の需要が増えたことが大きいが、要因はそれだけではない。世界各地で進めてきた綿密な値上げ戦略で稼ぐ力が高まっている。

「誇りであり、責任も感じている」。時価総額が「グローバルメジャーフードカンパニー」の証とされる100億ドル(約1兆500億円)を上回った8月、日清食HDの安藤宏基社長はこう語った。時価総額1兆円は2016年に策定した「中期経営計画2020」で掲げた目標。社員に株価を意識してもらうため、株価動向によってイベントやメニューの一部が変わる社員食堂「カブテリア」を16年に東京本社に設けるほど株価にこだわってきた。

日清食HD社内に設置している株価モニター(8月13日)
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8月25日には1万960円の上場来高値を付け、中期計画を公表した16年5月12日の前日終値(5390円)の2倍強になった。景気に左右されにくい「ディフェンシブ銘柄」と位置づけられていたが巣ごもり需要の影響で「成長銘柄に変わった」(大手運用会社のファンドマネジャー)。

もっとも、市場の期待度合いを表す予想PER(株価収益率)が極端に高まったわけではない。今年3月以降の平均は33.7倍。18年以降の平均である31.3倍とさほど変わらない。期待値だけでなく、稼いだ利益の積み上げが株価を押し上げた面は少なからずある。20年3月期までの3年間で1株あたり利益は約3割増えた。

国内外で踏み切った値上げによる稼ぐ力の向上が背景にある。国内では昨年6月の出荷分から即席袋麺などの希望小売価格を4~8%引き上げた。海外でも米国やメキシコ、ブラジルなどで値上げを浸透させてきた。

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19年3月期以降の営業利益の増減を分析すると、ここ1年間は値上げなどによる売り上げ増が物流費などのコスト増を吸収する形で利益のけん引役になっている。とくに国内での価格改定の効果が出た19年7~9月期は、売上高に相当する売上収益の伸びが営業利益を48億円押し上げた。20年4~6月期は押し上げ額が64億円にまで拡大している。

値上げは1品あたりの利益率を高める一方、販売量が減るリスクもある。そのリスクに対処するため、綿密なマーケティング戦略を講じてきた。投入する商品の顧客層を明確に絞ったのがひとつだ。

たとえば若者には「チキンラーメン」の新シリーズとして辛みやうま味を増した「アクマのキムラー」を投入。やみつきになる味として訴求した。女性をターゲットにした「トムヤムクン」なども出した。重点地域と位置付けるブラジルではテリヤキ味に加えて、19年にカレー味を発売するなど、若者に焦点をあてた商品展開をする。

奇をてらった販促策で注目を集めるのも国内外で共通している。ブラジルでは昨年、現地法人の日本人社長が広告動画に登場。現地の人々が生み出す斬新な袋麺の食べ方を称賛しつつ、「我々は完璧なラーメンの作り方を知っていると信じていたが、心から謝ります」と頭を下げた。SNS(交流サイト)で拡散し、現地で話題を呼んだ。人々の心を捉えつつ、ブランド力を巧みに高めている。「ブランド力を着実に伸ばすため、広告宣伝費は今後もしっかりと使っていく」(日清食HD)という。

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21年3月期の営業利益は前期比22億円(5%)増の435億円を計画する。22億円のうち10億円強は売り上げから変動費を差し引いた限界利益の増加が占める。限界利益は大きいほど稼ぐ力が大きいことを示す。

半面、国内外の設備増強を進めたことで資産規模が拡大した。20年3月期の売上高営業利益率は2年前と比べて0.8ポイント高い8.8%になったものの、総資産利益率(ROA)は2年間で0.2ポイントの上昇にとどまる。総資産が2年で約1割増えた影響が出ている。

巣ごもりで取り込んだお客をつなぎとめつつ、資産効率をどう高めていくかが、1兆円クラブからさらに飛躍するための条件となる。』