自由で開かれたインド太平洋に向けた日本の取組

第4章 アメリカのインド太平洋戦略:日米同盟へのインプリケーション
小谷 哲男
http://www2.jiia.or.jp/pdf/research/H30_Indo_Pacific/04-kotani.pdf

 ※ 安倍辞任の原因につながるような、重要な記述があったので、紹介しておく…。

『そもそも、日本政府が FOIP(※自由で開かれたインド太平洋戦略)構想を打ち出したのは、中国が一帯一路構想の推進によって地域での影響力と存在感を増していたことにバランスを取るためであった22。FOIP は中国を封じ込めることを狙ったものではなく、地域諸国に一帯一路に代わる代替案を示すこ
とがその主目的であったと考えられる。そして、その性格は日中関係の改善によってやや変化し始めている。日中は、2018 年 10 月の日中首脳会談で、第三国民間経済協力で合意し、52 本の協力覚書が交換された23。これは、事実上日本が一帯一路に協力するということを目指すことを意味している。ただし、日本政府は協力の条件として、適正融資による対象国の財政健全性、プロジェクトの開放性、透明性、経済性の 4 つを挙げている24。また、これはあくまで民間の協力を促すものであり、日中第三国民間経済協力の最初の事例になると期待されたタイにおける高速鉄道事業は、結局日本企業が応札せず、幻に終わった25。しかし、日本としては、条件付きで第三国協力を進めることで一帯一路の負の側面を改善させることができ、中国としては日本の協力を得ることで「債務の罠」と批判される一帯一路の正当性を高めることができる。なお、日本政府は当初 FOIP を「戦略」と位置づけてきたが、最近は「構想」と改めており、これは中国を刺激することを避けるためだと考えられる。

より深刻な相違は、中国の一帯一路構想への立場である。トランプ政権の高官は同構想への強い警戒感を隠さず対決的な姿勢を維持しているが、日本は一帯一路への事実上の協力を表明している。このため、トランプ政権の中には日本の動きを「裏切り」と捉える向きもある27。

一帯一路が突きつける挑戦は、中国がインフラの輸出を通じて地域での政治的・経済的影響力を拡大するとに留まらない。一帯一路のプロジェクトで整備された港湾を人民解放軍が利用するという軍事的な懸念や、デジタル経済のルールを中国が決めてしまうこと、デジタル監視社会モデルを地域に輸出すること、さらには偽情報の流布によって民主主義を弱体化させることなどが挙げられる28。このため、日米のアプローチをうまく調整し、これらの問題に取り組む必要がある。

また、アメリカにとって普遍的価値は FOIP の主要な要素となっているが、日本は価値の側面を意図的に前面に出していない。東南アジア諸国の中には、日米が FOIP を通じて国内改革を求めてくるのではないか、さらには日米豪印が ASEAN に取って代わり、中国を封じ込めようとしているのではないかと警戒する傾向がある29。基本的価値の拡大は日本にとっても重要な外交課題であるが、FOIP を推進する上で東南アジアは重要なパートナーであり、無用な警戒感を高めるのは得策ではない。2018 年 11 月にシンガポールで開
かれた日米豪印協議で、インド太平洋地域における法の支配やインフラ開発の重要性に加えて、ASEAN の中心性に支持を表明した30のはこのためである。FOIP の推進に当たっては、日米とも引き続き地域諸国の懸念を払拭していく必要がある。

おわりに
日米は FOIP という共通の構想に基づいて、インド太平洋地域にルールに基づく秩序と法の支配をもたらし、質の高いインフラを整備して連結性を高め、航行の自由を維持することで、地域の安定と繁栄に貢献しようとしている。一方、日米は中国の一帯一路への対応についてアプローチが異なる。アメリカは FOIP を通じて一帯一路に代わる選択肢を提供することでこれを封じ込めようというアプローチだが、日本は一帯一路への協力に条件をつけることでこれを無害化しようとしていると言えるだろう。日米が一帯一路の無害化
という共通の目的を共有できるのであれば、双方のアプローチが異なることは問題とはならない。

重要なのは、日米が FOIP を通じて目指す地域ビジョンを常にすり合わせることである。さもなければ、日米間にくさびを打ち込む隙を中国に与えてしまうだろう。
また、日米は FOIP の普遍的価値の側面について立場が異なっている。インド太平洋地域は多様な国家から成り立っており、国内体制もバラバラであるが、FOIP が価値の押しつけであると受け止められてしまえば、地域諸国の協力を得ることは難しくなる。FOIP を成功させるためには、地域諸国の懸念の払拭にも努めていく必要がある。この点について、日米間で調整を続けるとともに、東南アジア、特に海洋国家のインドネシアやシンガポールなどが東南アジア版の FOIP を打ち出すのを支援することが望ましい。』