アキレス腱を抑えられたファーウェイの行方

アキレス腱を抑えられたファーウェイの行方
台湾TSMCの強みとは
高口康太 (ジャーナリスト)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/20586?page=2

『「米国企業の部品は買わせないというので代替部品を自社開発して入れ替えた。そうしたら今度は自社開発の部品は量産させないが、米国企業の部品は買ってもいいと変わり、それに合わせて設計し直すことになった」。華為(ファーウェイ)技術日本法人の王剣峰(ジェフ・ワン)会長は米国の制裁が与えている影響についての取材でそう話し、苦笑した。

 米商務省傘下の産業安全保障局は2019年5月、ファーウェイをエンティティー・リストに指定した。これにより米企業はファーウェイとの取引が禁止されたほか、米国以外の企業であっても米国由来の技術や部品を一定比率以上含む製品をファーウェイに輸出することが禁止された。

 ファーウェイは中国随一のテクノロジー企業ではあるが、その製品は米国や日本などから輸入した部品を数多く含んでいる。エンティティー・リスト指定は大打撃をもたらすかと思われた。しかし、19年の決算では、売り上げは8588億元(約13兆円)と、前年比19.1%増の高成長を記録した。制裁によって、主力商品のスマートフォンは米グーグルの諸機能が搭載できなくなり、海外市場での売り上げが落ち込んだが、中国国内市場ではもともと検閲によりグーグルの機能は排除されていたため影響はなかった。

 ファーウェイの事業のもう一つの柱である携帯電話基地局事業でも、中国は巨大市場だ。招商銀行研究院の報告書によると、23年までに中国携帯キャリアが必要とする5G基地局は400万局に達する(日本の設置目標数は21万局)。現時点でファーウェイのシェアは約50%とみられる。ここでも米国の制裁は痛手ではあるが、巨大な中国市場があるかぎり、致命傷とはならない。

サムスンを一世代先行する
台湾TSMCの製造技術
 そんな中、今年5月に新たな制裁が導入された。ファーウェイが設計した半導体を、海外のファウンドリ(半導体受託製造企業)が量産することを禁じるという内容だ。ファーウェイの子会社である半導体設計企業ハイシリコンはスマートフォン向けSoC(システム・オン・チップ、CPUなどスマートフォンの中核機能を統合したチップ)の「Kirin」や5G基地局コアチップの「TIANGANG」の開発を担当してきた。自社の製品に最適化された、高性能の半導体を独自設計できることがファーウェイの強みだ。

 ただし、設計まではできても、量産する能力はファーウェイにはない。製造については多くを世界最大のファウンドリであるTSMC(台湾積体電路製造)に委託してきた。米国はTSMCへの依存こそファーウェイのアキレス腱だと見抜き、両者の分断を図る新たな制裁を実施したわけだ。

 微細加工技術をはじめとして、TSMCの製造技術は、半導体受託製造で第二位のサムスンと比べて「一世代は先行する」(半導体企業の幹部)と言われ、米アップル、クアルコム、アドバンスト・マイクロ・デバイス、NVIDIAなど世界のトップ企業の受託製造を受け持ってきた。台湾調査会社トレンドフォースによると、TSMCの20年第2四半期の売り上げは101億ドルで、2位のサムスンの37億ドルに2.5倍もの大差をつけている。

なぜ、TSMCはそれほどまでの地位を得たのか。台湾の電子機器産業に詳しいアジア経済研究所地域研究センターの川上桃子センター長は「製造設備、EDAツール(電子設計自動化)、IP(知的財産)、設計など半導体産業の重要なポジションは今でも米国が抑えています。半導体技術の進展に伴い、TSMCが担う製造工程は莫大な設備投資が必要な分野となり、少数のプレイヤーに寡占されていきました。この過程で圧倒的な存在感を示すようになりました」と話す。

 TSMCの強みは規模、最先端製造技術、設計サポートの三点に集約できる。さらに性能と省電力化の鍵を握る微細化でも他社をリードしているうえに、強力な開発サポート体制を構築している。元エルピーダメモリ社長で現在は中国・清華紫光集団傘下・IDTの坂本幸雄社長は「ファーウェイ、ハイシリコンほどの技術者を抱えた企業であっても、TSMCの設計環境を活用することで、より効率的な開発ができ、きわめて重要だ」と指摘する。

 この三つの強みを持つファウンドリはTSMC以外には存在しない。かろうじて代替の可能性があるのはサムスンだが、スマートフォンで競合関係にあり、かつ米国との関係を考えれば、ファーウェイに協力することは難しい。

ファーウェイは窮地を
どう乗り越えるのか
 この窮地をファーウェイはどのようにして乗り越えようとしているのか。スマートフォンに関しては独自SoCによる差別化という武器は失われてしまうとはいえ、台湾メディアテック、またはクアルコム製の汎用品を採用することが可能だ。むしろ困難なのは5G携帯基地局のコアチップだ。製造企業ごとにコアチップはまったく別物なだけに汎用品は存在しない。「TIANGANG」は最先端の7nm(ナノメートル)プロセスで製造されているため、全量をTSMCが量産しているとみられる。

TSMCはファーウェイの5G基地局コアチップ・「TIANGANG」の製造も担っているようだ (AP/AFLO)
 ファーウェイが必要とする量を製造できるファウンドリがもし見つかったとしても、再設計は不可避となる。最悪の場合は基地局の設計そのものをやり直す必要がある。ファーウェイとはいえ、自動的に中国国内の受注が与えられるわけではない。国内でのZTE、大唐電信科技との競争は激しい。基地局コアチップが再設計に伴い品質を落とせば、シェアを落としかねない。

 もっともファーウェイは昨年から制裁に備えて在庫を備蓄しており、短期的には供給に大きな問題はないとみられる。さらにTSMCも9月14日まではファーウェイへの出荷が可能で、この間に大量の駆け込み納品があることは間違いない。その在庫量は1年分にも達すると噂されており、この間に解決策を探ることになりそうだ。

 米国の制裁にファーウェイが大きな痛手を負ったことは間違いないが、中長期的に見れば軍配はどちらに上がるかわからない。「トランプ大統領のおかげで、全部自分でやるという覚悟ができた」と話す中国人経営者もいると漏れ伝わってくる。また、将来的に中国がTSMCのような能力を持った企業を立ち上げる可能性もゼロではない。米国がファーウェイのアキレス腱を抑えたのは間違いないが、今後はどうなるのか。米中対立の行方から目が離せない。』