【解説】ナワリヌイ氏の毒物反応、コリンエステラーゼ阻害薬とは?

https://www.afpbb.com/articles/-/3300980

『(2020年8月25日 17:40 発信地:ロンドン/英国)

【8月25日 AFP】ロシアの野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ(Alexei Navalny)氏(44)の治療を行っている病院は「コリンエステラーゼ阻害薬に分類される薬物による中毒症状」が認められると発表したが、同氏に使われたとみられる毒物について専門家らは24日、化学物質のグループに属している成分で、その仲間は殺虫剤から軍用の神経ガスまで多岐にわたると述べた。

 ドイツの首都ベルリンのシャリテ病院(Charite Hospital)でナワリヌイ氏の治療に当たっている専門家らは、「独立した研究所での複数回の臨床検査」によって、同氏に「コリンエステラーゼ阻害薬に分類される物質による中毒症状」が確認されたと発表した。ナワリヌイ氏に使用されたとみられる特定物質は「いまだ不明」で、現在、毒物を特定するための臨床検査を進めているという。

 コリンエステラーゼ阻害薬は、アルツハイマー病治療薬や特定の殺虫剤にも使用される薬剤の仲間だが、最も毒性の強い化学兵器「神経ガス」の仲間でもある。

 この物質には、サリンや神経剤VX、また2018年に英イングランド南部ソールズベリー(Salisbury)でロシア人元二重スパイのセルゲイ・スクリパリ(Sergei Skripal)氏とその娘ユリア(Yulia Skripal)さんの暗殺計画に使用された神経剤ノビチョクも含まれる。同事件では、事件現場の近くに住んでいた英国人女性が後に死亡した。

■呼吸に影響する筋肉にも作用

 コリンエステラーゼ阻害薬は、神経から筋肉にメッセージを伝達する酵素の働きを阻止し、それによって筋肉は「けいれんしたような状態になる」と、英リーズ大学(University of Leeds)で環境毒性学を教えるアラステア・ハイ(Alastair Hay)教授は説明する。

「すべての筋肉が影響を受けるが、最も重要なのは呼吸に影響する筋肉だ。呼吸が阻害されると、意識不明になる可能性もある。コリンエステラーゼ阻害薬による脳への直接的な影響もある」とハイ氏は述べた。

■神経系への長期的な影響

 深刻なケースでは、窒息または心不全を起こすこともある。十分な量を投与された場合は意識不明になるだろうとハイ氏は付け加えた。

 シャリテ病院は、ナワリヌイ氏に対して解毒剤アトロピンによる治療を行っていることを明らかにしている。

 アトロピンは筋肉の収縮を担う神経伝達物質アセチルコリンを阻害することで、毒物による症状を緩和する。神経ガスはアセチルコリンをつかさどる酵素を攻撃し、アセチルコリンの過剰生産と筋肉の機能不全を引き起こす。

 シャリテ病院は、ナワリヌイ氏の予後は今のところ不明で、「特に神経系に対し」長期的に影響が出る可能性は否定できないと述べた。

 スクリパリ氏とその娘の場合は、2018年に治療の結果、一命を取り留めた。

 ロシア大統領府(クレムリン、Kremlin)を批判する勢力に対しては、過去にも毒物を用いた悪名高い攻撃が複数発生している。

 ロシア連邦保安局(FSB)の元スパイ、アレクサンドル・リトビネンコ(Alexander Litvinenko)氏は2006年、英ロンドンで放射性ポロニウムが混入されたお茶を飲み、毒殺されている。ロシア政府は、事件の有力な容疑者、アンドレイ・ルゴボイ(AndreiLugovoi)氏の英当局への身柄引き渡しを拒否。同氏は事件後に国会議員になった。(c)AFP』