[FT]プーチン政権が続けるナワリヌイ氏監視の実態

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63058640W0A820C2000000/

『先週、毒物が原因とみられる昏睡(こんすい)状態に陥ったロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が搬送されたシベリアの病院では、医長室にマスク姿の3人の男が乗り込んでいた。

憂い顔で麦畑を歩くプーチン大統領の肖像画の下で、3人はとりとめのない話をしていたが、何者なのか名乗ろうとしなかった。だが、ナワリヌイ氏の家族や側近にとって、不似合いな服装とずる賢そうな物腰はすっかり見慣れたものだった。ロシアの治安機関の要員だとすぐに見分けがついた。

■治安機関が常時尾行

「まったくおかしな姿だ。こわもてで体格のいい男たちがたいていバッグを肩に掛けているので、それとわかる」とナワリヌイ氏が率いる「反汚職基金」のイワン・ジダーノフ代表は語る。

シベリアで汚職告発のユーチューブ動画を作成していたナワリヌイ氏が監視要員につきまとわれていたことは、10年来の活動を続ける同氏が今もロシア大統領府(クレムリン)にとって邪魔な存在であることを物語る。

プーチン氏に対する抗議運動を組織したかどで13回逮捕されているナワリヌイ氏は昨年、自身と家族は常にロシア治安機関の要員に尾行されていると本紙に語っていた。

「かなり前からずっと続いているが、もう当たり前のことになって気にしていないと言えばうそになる。ばか者たちがいつも隣に座ってくる。しかし生活を止めるわけにはいかない」と言明。「たいていの人は諦めて隠れようとするだろうが、私たちはできる範囲で生活を楽しんでいる」とも語っていた。

シベリアに同行し、オムスクの病院でナワリヌイ氏の病状を見守った側近らは、車での尾行やビデオカメラを隠そうとする男たちの姿を見るのもかなり前から慣れっこになっていると述べている。

「常に電話が盗聴されていることや隠しカメラがセットされていること、どこへ行っても監視カメラで撮影されていることはわかっている」とジダーノフ氏は語る。「私の身内や私が会った相手全員が尋問されている。完全な統制のようなものだ」

ロシアのペスコフ大統領報道官は、監視活動は「大統領警護隊の権限」で行われ、プーチン政権の承認を「受けるということはなく、受けるべきでもない」と強調した。

■世論工作にちらつくクレムリンの影

ナワリヌイ氏に対する監視は少なくとも、同氏が大統領選でプーチン氏に挑むべく国内行脚を始めた2017年までさかのぼれるようだ。同年、プーチン氏の盟友ユーリー・コバルチャク氏が親会社を共同所有しているとされるテレビ局が、ナワリヌイ氏は「逃亡した政商たち」から秘密資金を受け取っていると告発するドキュメンタリー番組を放映した。

この番組には、家族と休暇を過ごすナワリヌイ氏の姿をとらえた監視カメラ映像や盗聴された通話、テキストメッセージ、メールが使われ、同氏のスタッフがカフェで尾行された。

このテレビ局の元脚本家でオランダ亡命を申請中のドミトリー・ベロウソフ氏は本紙に対し、大統領警護隊から渡った映像であるはずだと語った。ナワリヌイ氏のような活動家をおとしめるための業界用語で言う「コンプロマート」と呼ばれる材料だという。

ベロウソフ氏は、テレビ局の政治担当チーフプロデューサーのアレクセイ・マルコフ氏から自慢された話として、クレムリンの委託による国営テレビのドキュメンタリー番組制作のために提供された監視映像などの素材を、ロシア連邦保安局(FSB)の「元締め」から入手したのだと語っている。

ベロウソフ氏は「彼が何者かに会って素材を持ち込んだ。基本的にあの番組を作っていたのは彼らだった」と言明する。「自分の発案であの種の番組を作るということはない。全て承認が得られるよう注文通りに作られている。何か伝えたい話がクレムリンの側にあって、FSBと政権が番組内容をまとめる」

ペスコフ報道官は「我々は何も知らない。彼らが誰なのかも知らない」と本紙に語った。このテレビ局はベロウソフ氏の話を最初に報じた独立系調査報道サイト「プロエクト」に対し、マルコフ氏がクレムリンから指示を受けたという事実はないとしている。

■隠しもしない監視活動

ロシアメディアの報道は、クレムリンがナワリヌイ氏のノボシビルスクとトムスクへの定期的とみられる訪問すら厳重な監視下に置いていたことを示している。政府寄りの大衆紙モスコフスキー・コムソモーレツは22日、旅行中は常にナワリヌイ氏の後をつけていたという「治安当局関係者」の話を伝えた。同氏は繁華街で支持者と自画撮りをしたほか、「陰謀のためのアパート」を借り、トミ川で泳ぎもしたという。

このリークは、ナワリヌイ氏に毒を盛るのは不可能だったということを示す狙いとみられる。「不適切あるいは疑わしい接触は一切」見られなかったとも強調している。

それでも、記事は監視活動の規模を浮かび上がらせている。要員がナワリヌイ氏の支持者のクレジットカードを照合確認し、寿司の出前注文やホテル予約についてもチェックし、同氏を車で尾行していたことを明らかにした。

プロエクトは、クレムリンの高官が同サイトの記者にナワリヌイ氏の公表前の検査結果を見せ「毒を盛られたということは完全にない」ことが証明されたと語ったとしている。

By Max Seddon

(2020年8月25日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)