米台国交樹立の落とし所、台湾海峡戦争になるのか?

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『米台国交樹立は決して幻ではない(参照:『米台国交樹立も視野に、トランプ対中闘争の5つのシナリオ』)。ただ理屈では分かるのだが、最大の障害はなんといっても、中国。実際にいざ米国がその一歩を踏み出した途端に、台湾海峡戦争を惹起するのではないかという懸念がある。つまり、中国が台湾を侵攻することだ。では、米台国交樹立の3つのシナリオを描いてみよう。

(Yurchello108/gettyimages)
台湾侵攻、中国が戦争をするシナリオ
 戦争シナリオ。「台湾は中国の不可分の一部」というのが中国共産党政権の譲れない一線である。この文脈からは戦争が不可避という結論が導き出される。ただ実際に中国は戦争に踏み切れるかというと、必ずしも肯定的とは限らない。「戦争をしない」に9つの理由があって、「戦争をする」には5つの理由がある。紙幅の都合上詳細説明を割愛して列挙する。

 まず、戦争をしない9つの理由をみてみよう。

1.中国軍は実戦経験が少なく、戦勝経験もほとんどない。
2.海戦(台湾海峡・南シナ海)の難題や高原地帯(インドの場合)の難題(補給・兵站)。
3.一人っ子世代による軍人の構成、戦意の欠落。
4.軍もビジネスの世界にどっぷり浸かっているため、経済的利益の喪失を恐れている(例:米国による個人制裁のリスク)。
5.習近平が軍権を独り占めしているため、前線・現場の即時決断ができず、戦争に必要なスピード感を出せない。
6.海外の反中反共ムードの醸成。
7.軍事(技術)力の実態に疑わしきものが多く、米国との対戦に勝ち目が薄い。
8.経済低迷、米中貿易戦争によるダメージが大きく、中国は財政難に直面しており、戦争に必要な財力が欠落している。
9.戦争に負けた場合、習近平は失脚、政治的生命を断たれる危機に直面する。

 次に、戦争をする5つの理由を列挙する。

1.中国共産党内の権力闘争や情報伝達の寸断、情報操作がトップの意思決定に悪影響を与え、決断ミスをもたらす。
2.トップの狂気、賭けに出る。
3.偶発的事故による軍事衝突の発生、局所的戦闘の拡大。
4.米国による台湾の国家承認、米台国交樹立。
5.複合的状況の形成(中共中央対外連絡部前副大臣で中国人民大学重陽金融研究所の主任研究員周力氏論文『外部環境の悪化に向けて6つの準備に取り組め』より抜粋引用)①米中関係の悪化と闘争の全面的なエスカレート、②輸出の縮小、産業チェーン・サプライチェーンの寸断、③コロナの再拡大・常態化、④米ドルからの切り離し、人民元とドルの段階的デカップリング、⑤食糧危機の発生 など。

 戦争をする5つの理由を否定するわけではないが、上記天秤にかけて総合的に判断すれば、戦争は決して理性的な選択でないことが自明の理である。さらに中台双方の軍上層部からそれぞれ「不打第一槍(一発目を撃たない)」の命令が出されているという報道もある(8月19日付、sohu.com海峡導報社)。これは特段の前提が設けられていなければ、基本的に戦争放棄の決断とみるべきだろう。

中国が米国と断交するシナリオ
 ただ、戦争こそしないものの、米国が台湾国家承認をした以上、「1つの中国原則」が否定されることになる。これはもはや最後の一線を越えたもので、中国は黙っていられない。考えられるのは米中国交断絶にほかならない。そこで、言い出しっぺはどっち側かだ。米国はしたたかで台湾と国交樹立しながらも、中国との断交を言い出さない場合、中国はどう対処するかが難題中の難題になる。

 米国が台湾の国家承認すれば、諸国が追随して中国と断交しないまま台湾と国交樹立するだろう。世界各国にとってみれば、むしろ「2つの中国」のほうが都合が良いからだ。問題は中国がこれを受け入れられるかだ。原則論からいけば、中国は米国をはじめ台湾承認した諸国に断交を告げなければならない。

 ただ断交は諸刃の剣。ここまでくれば、国連やWHOなどの国際機関はいやでも、正統性を手に入れた中華民国台湾の加盟を認めざるを得なくなる。するとこれらの国際機関においても中国はまたもや「2つの中国」の難局に直面する。つまり、国連は1971年のような代表権承認で中華人民共和国の中国代表権を認め、中華民国政府を追放する決議の採択を行わないまま、諸国同様の姿勢で「2つの中国」を容認することだ。もちろん中国は毅然とした態度で自ら国連から脱退するのも理論上取り得る選択肢ではあるが、なかなか現実的にできるものではない。

 米国の対中強硬姿勢は何もトランプ共和党だけではない。民主党は8月20日の全国党大会で採択された党綱領から「1つの中国政策」を削除した(8月21日付ドイチェ・ヴェレ)。11月の大統領選でトランプ共和党と戦うには、対中姿勢の強硬度が主な指標となった以上、民主党も反中に躍起した。故に、たとえバイデンが勝ったとしても、方向性を抜本的に変えることはもはやできない。

中国が米台国交樹立を黙認するシナリオ
 中国に残される最後の選択肢は、米台国交樹立を黙認することだ。中国は「台湾独立」に反対している。米国が声をかけて台湾と国交樹立した場合、台湾は何も独立宣言をするわけではない。到底「台湾独立」といえない。単に「中華人民共和国」と「中華民国」の2つの「政府」が実体として存在している事実を認めたに過ぎない。言い換えれば、「1つの中国、2つの政府」、つまり「一国二政府」ということだ。

 陳水扁が2000年台湾総統に当選した際、当時の連戦中国国民党主席は「一国二政府」に基づく連邦国家構築の構想を打ち出したことがある。これに対して中国側は肯定も否定もせずノーメントの姿勢で、香港式の「一国二制度」がより理想的な案として提示した。

 これをみる限り、「一国二政府」と「一国二制度」の類似性が浮上する。政府がなければ、制度も存在し得ないわけだから、当たり前といえば当たり前だ。問題は「政府」の中身だ。それが「中央政府」と「地方政府」の関係であれば、自己矮小化につながるため台湾は受け入れないだろう。逆に対等関係にある2つの「中央政府」と位置づければ、これは恐らく中台双方が受け入れられる最大公約数的な落とし所ではないだろうか。

 中国と香港の関係も「一国二政府」の関係であり、ただその前提に「一国二制度」があって「中央政府」と「地方政府」の関係も明確であるから中国は問題としていない。では、台湾の場合はどうであろうか。

 まず台湾政府の存在は争われない事実である。次に、中国は台湾政府の違法性を主張できない。違法性があるなら、通常の外交活動を行うことができないからだ。最後に台湾を地方政府と位置づけることができるかというと、これも無理。今までの経緯をみても明らかであるように、台湾は歴然とした中央政府として中国と対話してきたのである。

 一方、中国も台湾が「中央政府」であることを黙認してきた。ただ、「中華民国政府」という表現を使っていない。それだけの話だ。中台両政府間の交渉は、海峡両岸関係協会(中国側)と海峡交流基金会(台湾側)という2つの政府間交渉窓口機関を通して行われてきた。両機関の間に合意・調印された数多くの協定は政府間協定以外の何ものでもない。

 米国が台湾承認して米台国交樹立したら、これはすなわち「1つの中国」の崩壊、結果として中国は台湾侵攻を発動し、平和が崩壊する。というのが世間の一般的な認識だが、必ずしも当てはまらない。ゼロサムを回避するうえで、落とし所を見つけるのが政治の役目である。今は、政治家の英知が求められている。』
『米台国交樹立の時期
 最後に、米台国交樹立の時期について触れておこう。これも3つのシナリオが描ける。

 まず、トランプが大統領選を控え敗色濃厚になった場合、10月までに電撃国交樹立もあり得るだろう。民主党はすでに党綱領から「1つの中国政策」を削除したため、バイデンが当選しても、米台断交の可能性はほぼなくなっている。トランプがたとえ再選に失敗しても、レガシーができているので、歴史に名が残る。

 2つ目のシナリオ。トランプの実質的支持率(必ずしも民意調査の数字とは限らない)がバイデンを上回り、続投に勝算がある場合、米台国交の大事業を次の任期に回し、周到な準備に取り組むだろう。

 最後に3つ目のシナリオ。中国をはじめ外部環境に何らか大きな本質的変化が見られ、米台国交樹立の切迫性が薄れた場合、先送りする可能性もあるだろう。』