実録・浸水タワマン復旧への道程

実録・浸水タワマン復旧への道程
木村 駿 日経クロステック/日経アーキテクチュア 森山 敦子 日経クロステック/日経アーキテクチュア 坂本 曜平 日経クロステック/日経アーキテクチュア
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/na/18/00111/080500003/

 ※ 小杉のタワマンの続報だ…。

 ちょっと感心したのは、「管理組合」のみなさんが、非常にフットワーク軽く、機動的に動いておられる点だ…。

 「内水氾濫」とか、聞いたこともなく、文字通り「寝耳に水」の話しだったろう…。しかも、おそらくは、取得してからまだ数年しか経過しておらず、この先長い期間「ローン」を支払っていかなければならない立場にあるはずだ…。普通だったら、打ちひしがれて、復旧、再建への「気力」も無くしそうなところだ…。そこを、矢継ぎ早に「次のこと」を考えて、打てる策を、しっかりと打っている…。水のかき出し写真を拝見すると、まだ「お若いご夫婦」が多いようだ…。それで、腰軽く、機動的に動けたんだろう…。これが、70代、80代の「お年寄り」が多かったならば、なかなかそうは行かなかっただろう…。「若年層」の入居者が多かったことが、効を奏した形だな…。

『2019年10月、2万5000ヘクタールを超える浸水被害をもたらした東日本台風。多摩川流域の内水氾濫で電気設備が浸水したタワーマンションでは、復旧に長期間を要した。こうした被害を踏まえ、国土交通省は20年6月に浸水対策ガイドラインを公表した。

 2019年10月12日、東日本台風(台風19号)の接近に伴い、多摩川流域では四六時中、氾濫の危険性や避難情報を伝える緊急速報メールの受信音が鳴り響いていた。

 タワーマンションが立ち並ぶ川崎市中原区の武蔵小杉駅周辺では、増水した多摩川の水が、雨水を排水するための山王排水樋管を通じて逆流。広い範囲に内水氾濫を引き起こした。駅前に立つタワーマンション「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー」の浸水被害はとりわけ深刻だった。

 12日夜、周辺の浸水を知ったマンションの住人は、地下駐車場や建物の出入り口前に高さ60cmほど土のうを積み上げた。そのおかげで、外構は最大約30cmまで浸水したが、建物内に泥水が流れ込むのは防ぐことができた〔写真1~3〕。

〔写真1〕地下最深部の貯水槽から雨水があふれた
2019年10月の東日本台風の影響で内水氾濫が発生し、浸水したタワーマンションの地下3階で住民が排水作業をする様子。地下4階相当に設置された貯水槽に容量を超える雨水が流れ込み、蓋からあふれて地下3階が浸水した(写真:パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー)
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〔写真2〕多摩川を望むタワーマンション
パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワーの外観。地下3階・地上47階建てで、総戸数643戸の大規模タワーマンションだ(写真:パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー)
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〔写真3〕武蔵小杉駅周辺が浸水
2019年10月13日午前0時過ぎの武蔵小杉駅周辺の様子。写真右手がパークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー(写真:読者提供)
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 しかし、水は想定外の場所から浸入した。地下3階の下に設けた貯水槽の蓋から、あふれ出したのだ。マンション内に流入した水は9000t。浸水によって地下の電気設備の多くが故障して停電し、住人は17日の復旧まで不自由な生活を強いられた。』
『特定した浸水経路への対策
 フォレストタワーの管理組合はその後、タスクフォースを立ち上げて独自に調査し、浸水メカニズムを特定。20年3月2日に被災原因と再発防止策の検討状況を公表した。

 タスクフォースの調査によると、浸水メカニズムは次の通りだ。

 フォレストタワーでは市の指導の下、建物周辺の雨水を、雨水流入升を介して建物内の貯水槽に一時的に貯め、ポンプでくみ上げて敷地外の下水管に流す仕組みを採用している。下水道や河川などに能力以上の水が流出しないようにするためだ。

 被災時は周辺が冠水していたため、雨水の流入速度がポンプの排水能力を超えたとみられる。浸水し始めた当初は住民らが人力で排水していたが、流入速度は予想以上に速く、安全を優先して作業を中断した。

 タスクフォースは調査結果を踏まえ、管理会社の三井不動産レジデンシャルサービスや設計・施工者の竹中工務店などの協力を得て、再発防止策を整理。20年6月には雨水流入升から貯水槽へ雨水を送る配管に「止水バルブ」を新設した。貯水槽へと無制限に水が流入することを防ぐのが目的だ〔図1、2〕。ただし、貯水槽は雨水を貯めて周辺地域の浸水被害を軽減するための施設なので、止水バルブを閉じる基準については運用マニュアルを作成中だ。

〔図1〕浸水経路に止水設備を増設
パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワーの浸水メカニズムと再発防止策。建物の西側に武蔵小杉駅がある。同マンションの管理組合は2019年10月に発生した浸水被害を検証。特定した浸水経路や、建物の開口部、地下駐車場出入り口に止水設備を増設した(資料:パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワーの資料に日経アーキテクチュアが加筆、下の写真2点は日経アーキテクチュア)
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〔図2〕対策に優先順位を設定
パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワーのタスクフォースが作成した浸水対策案。優先順位を設定して進めている(資料:パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー)
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 東日本台風で、住人が自ら土のうを積むことになった経験を踏まえ、迅速に対応できるよう、地下駐車場出入り口と建物出入り口の計7カ所に止水板を設置した。外壁のガラス部分については、浸水深1mまで水圧に耐えられることを確認した。

 マンション管理組合の理事長は、「1mの浸水に耐える対策は講じた。次は多摩川が氾濫した際に想定される2m級の浸水対策だ」と話す。非常時に屋上の受変電設備を使えるよう配線系統を変えるなどの対策を検討している。』
『初の浸水対策ガイドライン
 首都圏の人気エリアに立つタワーマンションで電気設備などが浸水被害を受け、長期にわたって停電や断水が発生したことは社会に大きな衝撃をもたらすと同時に、都市部の浸水対策の甘さをあらわにした。

 タワマンの被災を受けて国土交通省と経済産業省は19年11月、「建築物における電気設備の浸水対策のあり方に関する検討会」(座長:中埜良昭・東京大学生産技術研究所教授)を設置。浸水対策の在り方や事例を初めて整理し、20年6月19日に「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」を発表した。

 ガイドラインでは、消費電力量が大きく、高圧受変電設備などの設置が必要となる建築物を想定し、洪水などの発生後も機能を継続できるよう、電気設備の浸水対策の在り方や具体例を示した。対象は、建築主や設計者、施工者、所有者、管理者、電気設備関係者など建築物の電気設備に関わる者だ。ガイドラインに法的な強制力はないが、浸水対策を検討している企業や管理組合などにとっては参考になる内容だ。

 ガイドラインではまず、対策の検討プロセスについて解説した〔図3〕。建築主や設計者などは、敷地の浸水リスクを調査し、浸水深や浸水継続時間などを想定する。さらに、調査結果を踏まえて浸水を防止する箇所を選定するなどして、建物の機能継続の目標水準を設定する。

〔図3〕浸水対策は浸水深の想定からスタート
国土交通省のガイドラインで示した建築物における電気設備の浸水対策の流れ。まずは浸水リスクを調査し、浸水規模や機能継続の目標水準を設定する。目標水準を踏まえ、必要な対策を講じる(資料:国土交通省の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 具体的な浸水対策としては、浸水リスクの低い上階などに電気設備を設置することが望ましいとした。上階に設置することが難しい場合は、建物への浸水を防ぐために「水防ライン」を設定するよう促した。

 水防ラインとは、建物などを囲むように領域を設定し、ライン上の全ての浸水経路に止水板などを設置することで、ラインより内側への浸水を防止。電気設備などの浸水リスクを低減する考え方だ。

 水防ライン上に施す浸水対策の具体例については、浸水経路別に紹介している。出入り口への止水板の設置や、下水道からの逆流を防止するバルブの設置などだ。

 さらに、水防ライン内で浸水が発生した場合に備え、水密扉の設置などによる防水区画の形成や電気設備の設置場所のかさ上げなどの対策も示した。事例集ではこうした対策の参考事例を紹介し、止水設備の特徴についても解説している〔写真4〕。

〔写真4〕対策の具体例を紹介
国土交通省のガイドラインに示した浸水対策の一例。電気設備を想定浸水深より高い壁で囲んだ例や、高い位置に設置している例などがある。また、地盤面より1階床面の高さを段階的に高くして平時の建物利用の利便性を損なわないよう配慮した例も示した(写真:国土交通省)
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 ガイドラインでは、建物の企画・設計の段階から平時、水害発生時などの各段階で誰が何をすべきかを整理した「タイムライン」も提示〔図4〕。関係者間で共有し、自身の役割を事前に確認しておくことを推奨している。

〔図4〕建物の浸水に備えてタイムラインで役割を確認
国土交通省のガイドラインで示した浸水対策タイムライン。企画・設計段階から発災前後まで、時系列で対策項目と役割を整理した。これを参考に、個別の建物の特徴や管理体制に合わせてタイムラインを作成することを推奨している(資料:国土交通省)
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