ジョブ型雇用はやめておけ、「DX人材」や「アジャイル人材」にも惑わされるな

ジョブ型雇用はやめておけ、「DX人材」や「アジャイル人材」にも惑わされるな
お題:デジタル革命の時代に「サラリーマン」じゃ生き残れない
甲元 宏明 アイ・ティ・アール
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00868/081800106/

『スタート以来、日経クロステックの名物コラムとなった「テクノ大喜利、ITの陣」。今回はその第23回だ。毎回、複数の識者に共通のお題(質問)を投げかけ、識者にはそれに答える形で論陣を張ってもらう。今回は夏の特別企画として枠を2倍に拡大して、識者8人に暴論、奇論を織り交ぜ熱い弁舌を振るってもらう。

 お題は「デジタル革命の時代に『サラリーマン』じゃ生き残れない」。識者の4番手は、調査・コンサルティング会社のアナリスト甲元宏明氏だ。「人は企業が定義したスキルマップを埋めるために生まれてきたのではない」と主張する甲元氏は、1人の力が大企業に勝る時代が到来した今だからこそ、個々人が自らのビジネス人生を自分の手で設計せよと説く。(編集部)』


『世界中でインターネットが利用できるようになり、クラウド、スマートフォン/タブレット、モバイル通信などのテクノロジーの発展と相まって、世界のどこにいてもいつでも仕事ができるようになりました。

 今後はIoT(インターネット・オブ・シングズ)、ロボット、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)、3D設計/試作などの進化により、スマートファクトリーも進み、工場に人が張り付く必要もなくなります。AI(人工知能)のおかげで、繰り返し型の作業を人が担うこともなくなるでしょう。

 新型コロナウイルス禍以降、物理的なオフィスを必要としない企業も増えています。今後はオフィスを全く持たない企業も増えるでしょう。このような変化により、企業における従来の人事評価基準(拘束時間、作業時間、業務処理量、勤務態度など)はなくなっていくと思います。

 コミュニケーションも対面ではない形式、つまりZoomのようなWebミーティング、Slackのようなチャットの利用頻度が高まり、これまでの「社内コミュニケーション術」の価値はなくなるでしょう。例えば、上司へのお世辞など上辺だけのコミュニケーション能力や、飲み会参加率などの付き合いの良さによる評価はなくなるはずです。

 今後も従来通りの仕事のやり方やコミュニケーション手法の踏襲を強いる企業に未来はないともいえます。数年前からこのような傾向はありましたが、コロナ禍でこのような変化が大きく加速したのです。

 しかもデジタルテクノロジーの進化により、革新的なビジネスアイデアがあれば、大企業に1人で戦うことも可能な時代になりました。「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)のような巨大企業が世界を席巻する時代に何を言っているのか」という批判もあるかと思いますが、これらの企業がたった1人、または数人でスタートしたことを忘れてはいけません。

 誰でもGAFAのような企業を作ることが可能な時代になっているのです。これまでは企業力が個人1人ひとりの力に圧勝していましたが、これからは1人の力が大企業に勝ることもあり得る時代になったということなのです。このような時代に「会社人」は必要ありません。自分の意思を持った個人が重要なのです。』


『最近、日本企業の雇用は「メンバーシップ型」から「ジョブ型」に移るべき、という論調が増えていますが、私の主張は異なります。私は米国居住経験がありますし、今も多くの欧米企業と付き合っていますので、ジョブ型の良い点も悪い点もわかっているつもりです。少なくとも、メンバーシップ型とジョブ型のどちらの選択肢が良いかという議論は不毛だと考えています。

 欧米企業でのジョブ型雇用はジョブディスクリプション(職務記述書)ありきです。ほとんどの日本企業では、仕事上の役割や組織の定義は非常に曖昧です。昔はきちんとした定義があったのかもしれませんが、時代の変化や人の入れ替わりにそれらの定義が対応できず、有名無実化しているのが一般的です。

 日本企業では、役割や組織分担の曖昧さを誰かが埋めてくれることを前提としています。そして、それを積極的に行う人が評価されるのです。例えば、国内製造業の「できる営業」は顧客の要請に基づき、自社の工場の生産計画にまで口を出し、場合によっては工場に乗り込んで無理難題を通します。

 日本ではこのような人ができる営業ですが、欧米企業でこんなことをすれば総スカンにあいます。他人のジョブ領域を侵害することになるからです。

 ある統計によると、今の日本の20〜30歳代の約8割は「お金のために働く」のだそうです。自分のやりがいややりたい仕事のために働く割合は非常に小さいようです。実際、私は仕事柄、多種多様な人とコンタクトしますが、やりがいをもって仕事をしている人は2割もいないと感じています。

 以前にこの連載において、「エンジニアは専門家(プロフェッショナル)になれ」と書きましたが、今の日本は「プロフェッショナル志向」の人は少ないのです。ジョブ型はプロフェッショナルな志向を持つ人が対象です。現時点でプロフェッショナルが少なく、今後も増える見込みのない日本でジョブ型雇用は無理があるのです。

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 数十年の計画で日本全体の仕組みを変えられる人がいるのであれば、ジョブ型雇用にシフトすることも可能だと思いますが、少なくともそのような人は今の日本にはいないでしょう。このような理由により、私は中期的な観点ではジョブ型雇用への移行には否定的なのです。』
『質問1への回答で「今の日本はプロフェッショナル志向の人は少ない」と書きましたが、個人力が重要な時代ですから、やはりプロフェッショナルになってほしいと思います。プロフェッショナルを必要とする日本企業が増えてほしいとも思います。

 これはエンジニアや技術者に限った話ではありません。人事でも、総務でも、購買でも、営業でも、どのような職域でもよいから、自分の得意とする分野におけるプロフェッショナルになってほしいのです。単純に言えば、自分の得意とする分野を持ってほしいということです。

 あるテレビ番組で、その道の達人に「プロフェッショナル」の定義を尋ねていました。このようにプロフェッショナルの定義は定まっていません。私がこのような話をする際には、「プロフェッショナルとは急に話を振られて、資料なしで自分の得意な分野について1時間話すことができる人」と説明しています。話がうまい必要は全くなく、他人に説明できるかということです。

 「企業にとって必要な人材とは何か」を個人が意識する時代は過去のものにしましょう。自分中心で、自分がやりたいこと興味を持っていることを深く掘り下げていきましょう。個人の力が重要な時代になり、そのような人が活躍することで企業もメリットが生まれる国にならないと、日本企業は海外に勝てないと思います。

 そもそも「人材」という言葉自体が企業論理そのものです。「人材」という単語は「材料」という語感があるため、企業にとってかけがえのない財産という意味で「人財」という造語が生まれて久しいですが、どちらも企業側の視点で人を見ています。

 経営リソースには「人/モノ/金/情報」があるというのがビジネスの基本知識ですが、人はリソースではありません。ロボットが経営している企業ならいざ知らず、企業とは人がいなければ成り立たないものです。全ての企業は多種多様なプロフェッショナルが集まって成果を出すことができる組織を目指すべきなのです。

 国内メディアや企業のWebサイトには「××人材」という単語が頻繁に登場します。「デジタル人材」「DX人材」「アジャイル人材」といった具合です。そんな言葉に惑わされず、自分のビジネス人生を設計してほしいのです。

 「人生設計」というと大げさに聞こえますが、短期間の目標でよいので自分のやりたいことや得意なことを決めましょう。一度決めた設計が、自分の気持ちや家庭環境を含む外部環境などの変化で変わっても全く問題ありません。自分が決めた人生設計で自分をがんじがらめにしてはもったいないです。

 人材育成やキャリアプランに関しては、官公庁から出されているガイドラインやフレームワークを参考にする企業が多いですが、それらを作成している組織が素晴らしい成果を上げているとはとても思えません。無視しましょう。人は企業が定義したスキルマップを埋めるために生まれてきたのではないのです。』
『今さら私が書くまでもなく、日本のITが遅れていることは事実ですし、コロナ禍で官公庁系システムが旧態依然のものであることが明らかになってしまいました。企業や官公庁のITが急激に変わる可能性は小さく、今後も「IT後進国」の状態が続くでしょう。

 だからといって、個人のIT力を日本全体のIT力のレベルに合わせる必要はありません。ITを仕事としていないビジネスパーソンでも、個人力を発揮するためにITは必須の武器です。全てのビジネスパーソンはIT力を持つべきなのです。

 個人力を高めるためには、IT以外にも英語力が必要です。ITは国境をなくしました。世界の最新情報が誰でもすぐに手に入る時代になりました。しかし、それは英語圏に限った話です。日本語に限定すれば、情報量や情報伝達スピードは英語に大きく後れを取ります。ビジネスも日本枠で考えるのと世界枠で考えるのでは雲泥の差があります。グローバルな視野を持つには英語が必須なのです。よりプロフェッショナルになるには、世界のプロフェッショナルが発信する英語情報にアンテナを張りましょう。

 新しいことをやろうとすると、非プロフェッショナルの外部の人々から批判的な意見を聞かされることも多くなります。このような人たちの意見を気にする必要はありません。その意味では、自分のプロフェッショナル志向に参考にならない人の意見を聞き流す力も必要になります。インターネットは個人力を上げるのに必須のプラットフォームですが、素人がばっこするSNS上の情報には鈍感になりましょう。』