アフターコロナ 仕事はこう変わる:

「他と違った行動を認めない」「テレワークで細かく監視したがる」上司が、企業のイノベーションを阻害している
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2008/20/news017.html 

『新型コロナウイルスの感染拡大に伴い多くの企業でテレワーク化やビジネスモデルの見直しが進められている。そうした状況に適応する企業がある一方で、「決裁のために出社しなければいけない」「相変わらず、対面の社内ミーティングが必須」といった企業も少なくない。こうした現状について、『職場の問題地図』(技術評論社)などの著書で知られる業務改善・オフィスコミュニケーション改善士の沢渡あまね氏は、「日本型マネジメントの根底には、“幼稚性”があるのではないか」と指摘する。

 沢渡氏のインタビューを前後編でお届けする。今回の「前編」では、日本の「これまでのマネジメント」の問題と、「これからのマネジメント」の姿について聞いた。社会の不確実性が高まる今、どのような組織変革が求められているのか。

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沢渡あまね(さわたり・あまね) 業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。1975年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業。日産自動車、NTTデータ(オフィスソリューション統括部)、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業。情報システム部門、ネットワークソリューション事業部門、広報部門などを経験。これまで300以上の企業・自治体などで、ワークスタイル変革、組織改革、マネジメント改革のの講演・業務支援・執筆活動などを行う。『職場の問題地図』(技術評論社)など著書多数。新刊に『職場の科学 日本マイクロソフト働き方改革推進チーム×業務改善士が読み解く「成果が上がる働き方」』。 Twitterは@amane_sawatari

日本はいま、時代の過渡期にある
――沢渡さんは、日本社会の現状について、どのように見ていますか。

 時代の過渡期に入っていると感じています。産業構造、マネジメントスタイル、法制度、カルチャー、さまざまな点において、過去30年、40年の日本の当たり前が通用しなくなっている。その原因について、私が思い至ったのが、「これまでの日本の組織マネジメントは、“幼稚性”に基づいていたのでは?」という仮説でした。

――幼稚性とは?

 例えば、リモートワーク中の社員を細かく監視しないと気がすまない上司がいますよね。あるいは、ものごとを進めるとき、自分を飛ばして話を進められると、「聞いていない!」と拗(す)ねて足を引っ張る……。これは、中学・高校の部活動の世界に似た理不尽な話です。

 こういう上司に当たると、部下もやる気をなくしてしまいます。せっかく時代の変化に合わせてスピーディーに動こうとしているのに、古いやり方を捨てない上司に邪魔されるわけですから。

 今、こういった軋轢(あつれき)は多くの場所で起きていると思います。気合根性、同調圧力、年功序列といった古い常識が、テレワークなどのニューノーマルな働き方と真っ向から対立しているのです。

マネジメントは、統制型(ピラミッド型)からオープン型へ
――今の時代に合った組織とは、どのようなものなのでしょうか。

 私は、旧来のマネジメントを「統制型(ピラミッド型)」、これからのマネジメントを「オープン型」として対比しています。こちらの表をご覧ください。

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沢渡さんが提示する「これからの時代のマネジメント」。統制型/オープン型の図表(作:沢渡あまね/画:noa)
 まずは、統制型(ピラミッド型)から説明します。統制型(ピラミッド型)は、トップダウンな管理体制です。下の者は上の人が言うことを聞くのが当然で、役職者が家父長のように権力をふるう形ですね。性悪説に基づいたマネジメントがよしとされ、ルールから逸脱することは許されません。

 統制型(ピラミッド型)で重視されているのが、いわゆる「報連相」ですが、そのやり方には、上司が心地よいやり方を下に強いる構造が見られます。例えば、メールによる報告が合理的な場面でも、直接報告を聞かないと気がすまない上司であれば、従うほかありません。資料の体裁や「てにをは」にこだわり、則していないと激怒する上司も。

 その結果、どんどん報連相が遅くなる、あるいは「ヒヤリ・ハット」などのちょっとした情報共有がされなくなる。自分の意に沿わない発言をする部下を、あからさまに冷遇したり、社内にネガティブキャンペーンをして居にくくする上司もいます。もはや人間としての器を疑いますが……。

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下の者は上の人が言うことを聞くのが当然で、役職者が家父長のように権力をふるう統制型の管理体制がまかり通っている(写真提供:ゲッティイメージズ)

――かつては、日本のトップダウン型のマネジメントは世界的に評価されていましたが、今の時代には合っていないのでしょうか。

 誤解されないよう補足しますが、私は統制型(ピラミッド型)のマネジメント自体を否定しているわけではありません。今でも、こうしたマネジメントが効果的な業種や職種はあるはずです。製造現場など。ただ、時代や社会環境の変化に伴い、マッチしない業種や職種が増えてきているのだと捉えています。

 統制型(ピラミッド型)は、製造業に最適化されたモデルです。長年の設備投資やテストの末にマーケットにローンチするというビジネスモデルの場合、決められたプロセス通りに業務を遂行するマネジメントは合理的です。

 でも、今はご承知の通り、スピーディーなトライアンドエラーが問われるIT業界の存在感が高まっています。事実、GAFAに代表される新興企業がイノベーションを起こし、日本の大手企業を凌駕(りょうが)していますよね。

 あのようなグローバル企業も、もともとは若い人たちが始めたベンチャーです。共感できる仲間が数人で集まって、トライアンドエラーを繰り返し、投資家や優秀なエンジニアを集めコラボレーションして世界に新たなサービスや体験を展開する。これは、統制型(ピラミッド型)の組織では起こりにくいのではないでしょうか。

――なるほど。統制型(ピラミッド型)のやり方では、現代のビジネスのスピード感についていけていない、と。

 はい。日本の統制型(ピラミッド型)のマネジメントを前提とした労働環境、法整備なども、もはや企業の変革や成長を阻害するバグです。本当は、若手や外の人の意見もくみ上げて、すぐに動かないといけないのに、昭和のおじさんがいつまでも議論をしている。これでは、革新的なITサービスなど生まれませんよね。

 せめて、管理職が若手や外部とのコラボに積極的であればいいのですが、多くの場合、管理者の意識レベルは古い時代にとどまっています。部下が同じ時間働き、同じパフォーマンスを出すことを求めるといった、ある意味で幼稚園児を統制する、あるいは一昔前の中学高校の部活動のような幼稚性に基づくマネジメントは、成長の足かせになっていると思います。

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GAFAに代表される新興企業がイノベーションを起こし、日本の大手企業を凌駕(りょうが)している(Google本社、写真提供:ゲッティイメージズ)

報連相型のコミュニケーションを捨て、「雑相」を促す
――次に、オープン型の特徴について教えてください。

 オープン型は、トップダウンではなくフラットなつながりを重視します。オープンな情報共有によって、互いの違いを殺すのではなく、むしろ認め合い、生かします。従来はよしとされてこなかった、仕事とは直接関係しない雑談も、オープン型では重要になってきます。

 こうしたマネジメントが今の時代にふさわしいと考えるのは、かつてのように「上の人が答えをもっている」という前提が崩れているからです。上司よりも数段優れたアイデアを、部下が思い付くことも十分にあり得ます。あるいは社外の専門家が答えを持っているかもしれない。オープンにコミュニケーションを取ったほうが、早く正しい答えに近づけると思います。

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沢渡さんが提示する「これからの時代のマネジメント」。統制型/オープン型の図表(作:沢渡あまね/画:noa)
――具体的には、どのような雑談が効果的なのでしょうか。

 「雑談と相談」「雑な相談」という2つの意味を含んだ、「雑相」という造語で説明したいと思います。これは、全社員リモートワークを実践しているソニックガーデンの倉貫義人社長が提唱している言葉です。

 まず、「雑談と相談」というのは、雑談が相談さらには問題解決や新たなアイデアの創発につながるようなコミュニケーションです。メールサービスのGmailがGoogle社の社員の雑談から生まれたという話もありますが、雑談が問題解決やイノベーションにつながるケースは少なくありません。

 次に、「雑な相談」というのは、生煮えのアイデアでも、相談の土台に上げてしまう、ということです。

――「相談」というと、きちんと中身を詰めてから行うイメージがあります。

 そうですよね。報連相がコミュニケーションの主体となる統制型(ピラミッド型)の組織では、それが常識です。しっかりとアイデアを練り、企画を資料に落とし込んで、はじめて上司に持っていけるという感じです。

 でも、今はどこにヒントがあるか分からない時代であり、スピードが何よりも求められます。きっちりと内容を詰めるよりも先に、情報共有することが大切です。

 カジュアルな「雑相」を活発にするには、社内のITインフラも重要です。社員同士がコミュニケーションしやすいカフェスペースを設けたり、Slackのようなビジネスチャットツールを導入したりする。固定席と会議室だけでは、なかなか雑相はうまれにくいですよね。雑相が起こりやすい「場」の提供も大事なのです。

 「社内のコミュニケーションはメールで十分」と思われるかもしれませんが、メールは手紙をデジタルに置き換えたもので、「わざわざ感」も働き、気軽な受発信には向いていません。わざわざ「○○様」とか「お世話になっております」とか書くのも面倒ですよね。「わざわざメールで伝えるほどのことではない」。この心理が、ちょっとした気付きの共有や、雑相を妨げます。その点、ビジネスチャットツールは形式にとらわれずに発信できるので、オープン型のカルチャーに合っています。

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GmailはGoogle社の社員の雑談から生まれた(写真提供:ゲッティイメージズ)

閉鎖的なバックオフィスの変革が必要
――日本企業は、どのようにオープン型のマネジメントを取り入れていけばいいのでしょうか。

 まずは、「このままで勝ち続けられますか?」ということを真剣に考えてみることだと思います。統制型(ピラミッド型)が合う職種や業種もあるので、とにかくオープン型にすればいいというわけではありませんが、今のマネジメントが合理的なのか、変化や成果から見直してみる必要があります。

 また、統制型(ピラミッド型)が合う業種であっても、部署によってはオープン型のほうがふさわしいケースもあるはずです。「ウチは製造業だから」「当社は地方都市の企業だから」と紋切り型、一律で考えるのではなく、部署毎や職種毎の最適解をそろそろ模索し始めてください。

――例えば、どのような部署がオープン型にシフトするといいのでしょうか。

 ずばり、バックオフィス、すなわち管理部門や管理業務から部分的にでもオープン化を進めてほしいと思っています。

 私はこれまで300以上の企業や自治体、官公庁などの働き方改革に向き合ってきましたが、「閉鎖的なバックオフィスが日本の組織改革を妨げている」という結論に至りました。

 例えば、一律の労務管理、固定的な働き方しか認めないオフィス環境、紙やハンコを求める業務フロー、懲罰的な人事制度。これらは社内外のオープンなコミュニケーションを阻害します。これでは、社内に外部とのコラボレーションに挑戦しようとする社員がいても、話が前に進みません。

 外部、そうですね。お取引先との商取引を考えてみましょう。少額の取引であっても、一律相見積もりを強制する企業もあります。そのための時間と労力が、お互い(社内外)にかかります。スピーディーにつながることができません。

 労務管理にしても、製造現場の人と、クリエイティブ職の人とを、同じ勤務時間に縛るのも、おかしな話です。合理的に考えれば、常識のように見える社内ルールの中に、不合理な点が見つかるものです。そして、これらの社内制度、社内ルール、慣習の多くは管理部門、すなわちバックオフィスが統括しています。つまり、バックオフィス次第で組織は大きく変わることができるのです。

 ただ、バックオフィスの中にいる人は、こうした問題に気が付いていないのかもしれません。経理部門など、外と接する機会が少ない人たちは悪気なく「井の蛙」になります。外を知らないものだから、古いやり方が正義だと思ってしまう。あるいは、これまた「井の中の蛙」の税理士や監査人などに「ハンコがないといけない」「規定のフォーマットでなければ認めない」などと「とんちんかんな指導」をされて、うのみにしてしまう。

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バックオフィスと呼ばれる管理部門や管理業務がオープン化を進める必要がある(写真提供:ゲッティイメージズ)

現状を変えるために、できること
――現状を変えるために、できることは何でしょうか。

 まずは問題を自覚するためにも、外の風を入れて、他社のやり方を知ることが大事です。そして、内部規則によって社員の働き方ががんじがらめになっている状態に気付いたなら、まず業務フローを見直してみてはどうでしょうか。外部人材の登用と活用も大事ですね。

 ただし、マネジメント(経営者や管理職)には異なる意見を受け入れる度量と力量が求められますが。そうしないと、外から来た人はその組織に「アンチ」になって去っていってしまいます。ますます、多様な人材が寄り付かない「田舎の残念なムラ社会組織」になり、やがて過疎化します。

 自由な働き方に「待った」をかけてしまうルールは撤廃し、オープン型に向かう上でブレーキになる要素を外していくのです。あるいは、変革を邪魔するマネジメント層は退任あるいは冷遇する人事制度も必要かもしれません。

 ただ、現状の問題をバックオフィスだけのせいにして、「あとはよろしく」と丸投げするのはよくありません。組織の働き方、カルチャーは、誰かのせいにして解決できる問題ではないからです。日本企業では、組織変革といいながら、その責務を特定の部署や社員に丸投げしているケースが目立ちます。

 政府が悪い、官公庁が悪い、社長が悪い、管理職が悪い、現場が悪い――確かに、そうなのかもしれません。というより、皆が等しく悪いのです。誰もが問題を抱えているからこそ、全ての人が正しく成長し、正しくアップデートしていく必要があります。そうした動きのなかで、バックオフィスの人たちは、社内ルールを変えて、外との壁をとっぱらうといいと思います。

 そのようにしてオープン型に進化したバックオフィスは、企業の成長をけん引する存在になり得ます。逆にいえば、こうした変革がなければ、日本企業どころか、日本全体が世界に遅れ、沈んでしまいます。

 誰か一人(一組織)のせいにして、その人(組織)だけを責め立てて自分は悪くないですって開き直る。それこそ幼稚な行動ですよね。』