スバル「新世代アイサイト」、姿消した“日の丸部品”

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01397/081800004/

 ※ 熾烈な自動運転の開発競争と、そこに「部品を納入する」サプライヤーの受注合戦の一端を示している記事だ…。

 ちょっとした「設計変更」が、何万点、何十万点、ヘタすると何百万点という失注(受注を失うこと)につながるという厳しい現実の姿を表している…。これが、「マイナー・チェンジ」「フルモデルチェンジ」と続いていくんだから、大変な話しだ…。

 しかも、その先の将来には、MaaSが控えていて、「自動車業界の先行き」は誰も見通せない…。そういう中で、完成車メーカー、サプライヤーは経営の舵取りをしていかないとならないわけだから、さらに大変な話しだ…。

『SUBARU(スバル)が先進運転支援システム(ADAS)を刷新する。「新世代アイサイト」と名付けた改良版の最大の驚きは、中核を担うステレオカメラをはじめとする主要部品を根本的に見直した点だ。これまで20年近くアイサイトの進化を支えてきた⽇⽴オートモティブシステムズ(以下、⽇⽴オートモティブ)やルネサスエレクトロニクス(以下、ルネサス)の日本勢から、海外の大手部品メーカーに乗り換えた。

 スバルは、2020年末に納車を開始する予定の新型ステーションワゴン「レヴォーグ」から新世代アイサイトの搭載を始める(図1)。新世代品で目指したのは、(1)交差点での衝突など事故を回避できるシチュエーションを増やすことと、(2)高速道路での運転支援の拡大――の2つである。

図1 スバルの新型ステーションワゴン「レヴォーグ」

スバルは2020年8月上旬に、ADASの進化版である「新世代アイサイト」に関する取材会を開いた。(出所:スバル)
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 「もちろん相当悩んだ。それでも、交差点事故への対応と高速道路での高度な運転支援を両立させるためには、ステレオカメラをゼロから見直す必要があった」。初代からアイサイトの開発に携わってきた、スバル先進安全設計部主査の丸山匡氏が打ち明ける。

 スバルが初代のアイサイトを製品化したのは2008年のことだった。「ぶつからないクルマ」の実現に向けて、前方監視用のセンサーとしてステレオカメラを日立オートモティブと二人三脚で開発してきた。カメラで撮影したデータを処理する半導体は、ルネサスがASIC(特定用途向けIC)の開発・製造を手掛け続けた。

スウェーデンVeoneerが受注を獲得
 新世代アイサイトに搭載するステレオカメラを供給するのは、スウェーデンVeoneer(ヴィオニア)である(図2)。スウェーデンの大手自動車部品メーカーAutoliv(オートリブ)から分社化した企業で、ドイツDaimler(ダイムラー)などにステレオカメラを供給した実績を持つ。新型ステレオカメラに内蔵する処理半導体は、米Xilinx(ザイリンクス)のFPGA(Field Programmable Gate Array)を選択した。

関連記事:スバルのADAS半導体戦略、「FPGAで勝負する」

図2 新世代アイサイトに使うステレオカメラ
Veoneerが供給する。左右のカメラ間の距離である「基線長」は、日立オートモティブ製の従来品から変えていない。(撮影:日経Automotive)
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 スバルが新世代アイサイトで最も重視したのが、交差点での衝突事故を回避するためにステレオカメラを広角化することだった。従来のステレオカメラから検知距離を維持しつつ、「検知角度を約2倍に拡大した」(丸山氏)という。

 検知角度を2倍にするため、スバルはステレオカメラに搭載するCMOSイメージセンサーの画素数を、これまでの約120万から約230万に増やした。CMOSイメージセンサーを供給するのは米ON Semiconductor(オン・セミコンダクター)である(図3)。

図3 新型ステレオカメラに内蔵するCMOSイメージセンサー
ON Semiconductorの「AR0231」という機種で、画素数は約230万。(撮影:日経Automotive)
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 ステレオカメラを広角化したいというスバルの意向は当然、旧知の日立オートモティブも理解していた。実際、従来品よりも検知距離を延ばしつつ、3倍以上の広角化を実現するステレオカメラを開発したと19年12月に発表済み。それでも失注したのはなぜか。

日立オートモティブの新型カメラの特徴は、左右のカメラで撮影する範囲をずらす方式に変えた点だ(図4)。具体的には左のカメラで右前方を撮影、右のカメラで左前方を撮影する。これにより広角化を果たしたが、結果的にはこの撮影方式の変更が仇(あだ)となった。

図4 従来方式と新方式の違い
映像の撮影方式を変更したことで、検知距離を維持しながら、従来の3倍以上の広角化を実現した。(出所:日立オートモティブ)
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関連記事:日立の次世代ステレオカメラ、コスト抑えて交差点に対応

 スバルのアイサイトは、ステレオカメラの左右の視差を利用して3次元の距離画像を作成。この画像上で同じ距離にあるものをグループ化し、輪郭形状や内部の特徴などから歩行者か車両かなどを判断する。

 日立オートモティブの新型カメラでは、撮影範囲の端部は1つのカメラでしか撮影できず、視差を取得できない。Veoneerのステレオカメラは、日立オートモティブのカメラよりも検知範囲は狭いが、スバルの要求に応え、撮影した全範囲で視差を取得できるようにした。

ミリ波レーダーを前側方に配置
 新世代アイサイトでは、車両周囲の360度の状況を正確に把握できるようにするため、ミリ波レーダーを追加した(図5)。これまでは後部バンパーの左右のみに24GHz帯の準ミリ波レーダーを搭載していたが、前部のバンパーの左右にも77GHz帯ミリ波レーダーを搭載する。後部の24GHz帯レーダーはドイツContinental(コンチネンタル)製。前部の77GHz帯レーダーは、ステレオカメラと同じくVeoneer製である。

図5 新型アイサイトのセンサー構成
前方監視用のステレオカメラ1個と、4個のレーダーを搭載する。(撮影:日経Automotive)
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 カメラとミリ波レーダーのデータを収集・処理するECU(電子制御ユニット)の機能は、ステレオカメラに内蔵する。カメラの高画素化とミリ波レーダーの追加によって、より高い処理能力を備える半導体が必要になった。さらに、半導体の発熱量が増えることへの対応策として、空冷ファンをステレオカメラのモジュールに備えるようにした。

 これまでの“日の丸連合”を解体して再構築した新世代アイサイト。隣接する車線まで検知できるようになり、見通しの悪い交差点での出合い頭や右左折時を含めて衝突被害軽減ブレーキを作動させられるようになった。さらに、ステアリングによる衝突の回避や被害軽減の機能も持たせる。

自動車専用道路でのADASとしては、新世代アイサイトのオプション機能として「アイサイトX」を用意する。複数車線における「レベル2」の運転支援機能を実現した。

 アイサイトXのオプション価格は35万円で、3次元(3D)高精度地図ロケーターや12.3型のセンターディスプレー、ドライバー・モニタリング・システム(DMS)、ステアリングホイールのタッチセンサーを追加で搭載する。自車位置の推定には、GPS(全地球測位システム)だけでなく準天頂衛星システム「みちびき」も使う。

 3D高精度地図やみちびきを活用することで、カーブの手前や料金所の手前で自動的に減速できるようにした。地図ロケーターは三菱電機製で、インクリメント・ピー(東京・文京)が作成した3D高精度地図データを内蔵した。アイサイトXはまずは日本市場に限定して導入することもあり、日本メーカーの部品を採用した。

 車線変更支援機能も備える。約70k~120km/hの車速域で車線変更のためのウインカー操作をすると、システムが周囲の安全を確認して自動で車線変更する(図6)。車線変更に関してはもう1つ、「エマージェンシーレーンキープアシスト」という機能を搭載する。車線変更・逸脱時に、隣接車線の車両接近を検知し、警告や車線変更を抑制する方向にステアリングに力を加える。こちらはアイサイトXではなく標準装備だ。

図6 車線変更支援機能の実演
運転者のウインカー操作をきっかけに、車線変更を開始する。(出所:スバル)
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 高速道路上の渋滞時は、ステアリングホイールから手を離せるハンズオフに対応する(図7)。DMSによって運転者の異常を確認した場合は、ディスプレーへの表示や音で警告する。それでも運転者が反応しないと、クラクションを鳴らすと同時にハザードランプを点滅させる。センサーで周囲の状況を確認しながら車両を自動で減速。カーブでは走行を続け、見通しのよい直線道路に入ったところで、走行車線内に自動的に停止させる。

図7 渋滞時はハンズオフが可能
車速が50km/h以下で、運転者が前方を向いていることが動作条件。(出所:スバル)
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 2030年までに自社の車両による死亡交通事故ゼロを目指すスバル――。新たな開発パートナーと生み出した新世代アイサイトを搭載する新型レヴォーグが重要な試金石になる。』