見果てぬ「チェンジ」 理念か現実か、黒人葛藤

見果てぬ「チェンジ」 理念か現実か、黒人葛藤
分断のアメリカ 選ぶのは我ら(3)
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO62644820U0A810C2SHA000?disablepcview=&s=3

『白人警官による黒人暴行死事件を受け、大統領選の争点に浮上した人種問題。野党・民主党のバイデン前副大統領は副大統領候補に初の黒人女性を選び、少数派(マイノリティー)の集票に注力する。黒人の声は選挙戦を変えるのか。』
『黒人比率が33%と全米平均(13%)より高い南部ジョージア州。民主党系団体「ザ・ニュー・ジョージア・プロジェクト」は7月下旬、有名ゲーマーを招きオンラインゲーム大会を開いた。参加条件は、大統領選の投票に必要な有権者登録の手続きを済ませること。この日だけで若者ら2500人が一気に登録した。』
『「『赤い州(共和党が強い州)』だったジョージア州は今は熱い激戦区だ」。団体を主宰する黒人女性エンセ・ユーフォットさんは4年前よりも黒人有権者の盛り上がりを感じる。毎週数千件、テキストメッセージや電話で投票を呼びかけ民主票の上積みを狙う。』
『ジョージアは2016年まで20年間、トランプ大統領を含む共和党候補が制してきた。地殻変動の起点は白人警官の黒人暴行死事件による「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」運動だ。公民権運動を率いたキング牧師の暗殺から半世紀後も変わらない米社会の暗部に、黒人の怒りが爆発した。

ジョージア州に住む白人のチャールズ・オハラさんは今回もトランプ氏に投票するつもりだが「残念だが負けるだろう。人種問題への対応で深刻な間違いを犯した」とあきらめ顔だ。』
『カギは投票率だ。16年の黒人の投票率は59.6%と前回から7ポイントも下がり、白人より5.7ポイント少なかった。民主党のクリントン元国務長官が激戦州を軒並み落とした敗因の一つだ。今年6月の世論調査では黒人の74%が「確実に投票に行く」と答えた。投票率が上がれば、赤い州が接戦州に変わる可能性がある。』
『黒人に投票呼びかけを求める動きはスポーツ界にも波及する。米プロバスケットボール・リーグNBAのスターで黒人のレブロン・ジェームズ選手は、ファンに投票所に足を運ぶよう訴える。SNS(交流サイト)のフォロワーはのべ1億3千万人と影響力は甚大だ。

団体も設立した。「選挙まであとわずか。友達や同僚、趣味の仲間などあらゆる集団に有権者登録を促しましょう」。オンライン会議に加え、9月からは食品市場など現場にも出る。団体幹部のアディス・デミシー氏は「若い黒人男性に、皆で一丸となって投票すれば社会を変えられると伝えたい」と語る。』
『ただ黒人は一枚岩ではない。激戦州の中西部ミシガンに住む黒人の元トラック運転手ケニス・マクフェランさんは「減税や規制緩和といった経済政策に賛同する」と今年もトランプ氏に一票を投じる。』


『民主支持者にはリベラルな人が多いが、黒人の実像は異なる。米ピュー・リサーチ・センターによると、民主支持の黒人で「自分はリベラル」と回答したのは29%。68%は穏健派か保守派だ。トランプ氏は民主党に「極左」とレッテルを貼り、黒人票を切り崩す。』
『「黒人を民主党から解放しよう」。黒人女性キャンディス・オーウェンズ氏が設立した保守派団体「Black Exit」略して「Blexit(ブレグジット)」は黒人に民主支持からの脱却を呼びかける。

5月のオンライン大会では、妊娠中絶反対など共和党の政策を黒人参加者に説いた。「手厚い生活保護など民主党の福祉政策は黒人の自立の妨げになる」とオーウェンズ氏は訴える。

【前回記事】
「バイデン優位」本物か 薄れゆく若者の熱狂
新型コロナウイルスの流行はテレワークが難しい黒人の感染率が白人より高く、米国社会を分断する人種間の溝を浮き彫りにした。白人と黒人の所得格差は学歴が高くなるほど拡大する。バイデン氏は教育水準の向上や税制改革を通じた格差是正を訴え、政策面でも取り込みを図る。

投票率の向上には歴史的に根深い問題もある。7月26日、星条旗に包まれ馬車で引かれた棺が南部アラバマ州セルマの大橋を渡った。故ジョン・ルイス下院議員は1965年、同じ橋でキング牧師らと黒人の投票権を求めてデモ行進し、白人警官の殴打で「血の日曜日」になった。この事件を機に黒人が全員平等に投票できることを決めた投票権法が制定された。

半世紀たった今もなお「共和党が黒人票の影響を抑えられるように妨害しているのではないか」との不満は根強い。「今年はコンピューター分析による選挙区割りで黒人票の影響力を抑える効果が大きく出る」。黒人票の妨害に詳しいアリ・バーマン氏は指摘する。

ヒスパニック(中南米系)票も選挙戦を左右する。ピュー・リサーチ・センターによると、有権者に占める割合は今年、13.3%と黒人(12.5%)を上回る見通しだ。南部テキサスや同フロリダ、西部アリゾナといったメキシコに国境を接する激戦州では、ヒスパニックの比率が2~3割に上る。

米公共ラジオ(NPR)の6月調査によると、ヒスパニックの59%が「バイデン氏に投票する」と回答した。16年にクリントン氏が66%のヒスパニック票を獲得したことを考えれば、バイデン氏が絶対的な強さを誇るわけではない。

白人警官による黒人射殺事件に抗議する女性(2016年、米ルイジアナ州)=ロイター
結党初期には奴隷制を支持していた民主党。その転換は1929年の大恐慌がきっかけだ。雇用対策や弱者救済を掲げ、黒人ら少数派を支持基盤に取り込んだ。黒人の民主支持者は8割を超え、オバマ氏は「チェンジ(変革)」を掲げ黒人初の大統領に就いた。

オバマ政権で副大統領を務めたバイデン氏は11日、副大統領候補に黒人のカマラ・ハリス上院議員を選んだ。白人と黒人の分断を乗り越え、融和できるかが問われる選挙になる。』