ラストベルト、遠い復活 異端児に迷う白人労働者

ラストベルト、遠い復活 異端児に迷う白人労働者
分断のアメリカ 選ぶのは我ら(4)
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『トランプ米大統領の当選の原動力となったのは中西部の「ラストベルト(さびた工業地帯)」で働く白人労働者だ。製造業の衰退が続くなか、雇用創出を訴える異端児に賭けた。4年後の今も熱狂は続いているのか。

「同じ過ちを繰り返さない。大半の組合員は民主党のバイデン前副大統領に投票する」。中西部ミシガン州デトロイトの全米自動車労組(UAW)の前支部長ビル・ジョンソンさんは明かす。4年前、組合員100万人の票は両党に均等に割れた。今はトランプ大統領に投票した過去を指摘されると怒り出す組合員もいる。

全米の製造業の従業員は有権者の約7%にあたる1574万人。8割が白人だ。製造業の衰退が続く「ラストベルト(さびた工業地帯)」の労働者は雇用創出を訴える異端児に賭けた。ミシガン州でトランプ氏は得票差0.2ポイントで勝ち、共和党候補として28年ぶりの番狂わせを実現した。

8月上旬、東部ペンシルベニア州の鉄鋼大手ATIの工場で働く従業員がつぶやいた。「もうすぐ閉鎖だよ。周りも新型コロナウイルスで失業だらけだ」

「専門家を信じないトランプの対応は最悪だ」

コロナ禍が直撃

ラストベルトの経済は新型コロナで大打撃を受けた。製造業の雇用はトランプ政権発足から今年1月までにミシガン、オハイオ州で2%弱増えたものの、感染拡大後の4月はミシガンで30%減、オハイオで14%減と全米平均の10%減に比べ急落した。グランドバレー州立大のエリカ・キング教授は「新型コロナで白人労働者のトランプ離れが起きている」と分析する。

ミシガン州ケント郡の民主党本部には、共和党からくら替えした地元住民のメールが相次ぐ。ゲリー・スターク代表は「トランプはミシガンを諦めたようだ」と自信を深める。トランプ陣営は7月、同州で選挙広告の投入を停止した。

「前回はよく分かっていなかったんだ。専門家の言うことを信じないトランプのコロナ対応は最悪だ」。オハイオ州の元発電所勤務の白人男性は2016年にトランプ氏に票を投じたが、今回はバイデン氏を支持すると決めた。

共和党からのくら替えが増えている(ミシガン州ケント郡の民主党本部)
もっとも労働者全員が「反トランプ」に雪崩を打ったわけではない。

8月5日、ミシガン第2の都市グランドラピッズ。「民主党の社会主義は許せない」。地元労働者ら大勢のトランプ支持者が公園で気勢を上げた。

「今のトランプ支持は2016年より強固だ」と語るミシガン州ケント郡のジョエル・フリーマン共和党本部代表(8月5日のトランプ支持者集会)
16年の大統領選当日、トランプ氏はこの街で開票結果を待ち、労働者に「自動車の雇用を米国に取り戻す」と誓った。共和党のジョエル・フリーマン氏は「今のトランプ支持は16年より強固だ」と強調する。

もともと労働組合は民主党の支持基盤で、大統領選の投票先では共和党を20~30ポイント上回ることもあった。これをトランプ氏は16年、レーガン大統領以来の8ポイント差まで縮めた。

「16年の状況と似ているのが恐ろしい」

隠れ支持を警戒

米キニピアック大の6月の世論調査では、オハイオ州でトランプ氏支持が45%、バイデン氏46%と拮抗する。同州の民主党支部の元代表は「世論調査の結果は少なくとも5ポイントをトランプ氏に加算すべきだ。浮かれてはいけない」と隠れトランプ支持者に警戒する。実際、労働者に多い白人・非大卒に絞ると56%がトランプ氏支持で、バイデン氏の35%を引き離す。同州の民主党支持者、マーク・マクベイさんは「(事前に民主優勢と言われた)16年の状況と似ているのが恐ろしい」と話す。

ラストベルトは新型コロナで経済復活が遠のいている(オハイオ州のミンゴー・ジャンクションの鉄鋼工場)
東部ペンシルベニア州西部ミッドランド郡のステンレス工場は現政権下で再稼働したが、輸入原料への関税によるコスト増などを理由に再閉鎖を決めた。「米国第一」の経済政策は功罪相半ばする。住民の白人男性は「前回はトランプ氏に投票したが、今は迷っている」と語る。

米国進歩センターの調査によると、16年の大統領選でラストベルトの白人労働者の投票率は決して高くなかった。白人・非大卒の投票率はミシガン、オハイオともに黒人より低く、ペンシルベニアでは57%と黒人より8ポイントも低かった。コロナ禍の経済低迷で労働者の危機感が強まれば、投票率が上がる余地は大きい。激戦州の勝敗を一段と左右する可能性がある。

【前回記事】
見果てぬ「チェンジ」 理念か現実か、黒人葛藤

トランプ氏はコロナ前の好調だったころの米経済を「ブルーカラー・ブーム」と命名し、年内にはこの水準に戻ると訴える。一方、バイデン氏の公約はトランプ氏と同じ「バイ・アメリカン」。税金で米国製品を買い製造業を支える。両者が米産業の優遇を競い続ければ、米国の内向き志向がさらに加速しかねない。』