貨物ファースト? 海の森に現れた「裏方の花道」

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00110/00193/ 

『「東京港にできた海の森大橋へ向かってほしい」。こう頼まれて迷わず到着できる人はほとんどいないはずだ。カーナビの地図にもまだ登録されていない地点かもしれない。

 海の森大橋は、東京・お台場の先、中央防波堤内側埋立地(江東区海の森)と外側埋立地の間に架かる橋長249.5mのアーチ橋だ。2020年6月20日に開通した。工事期間中は東西水路横断橋と呼ばれていた。

海の森大橋。開通前日の2020年6月19日に撮影(写真:大上 祐史)
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 同日には、お台場に隣接する有明地区と内側埋立地を結ぶ海底トンネル「東京港海の森トンネル」も開通した。「海の森大橋」と「海の森トンネル」を含む道路の正式名は「東京港臨港道路南北線および接続道路」と呼ばれる。

 知る人ぞ知る場所にできた新しい橋とトンネルへ、開通前日に訪れてみた。

(資料:東京都)
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 中央防波堤地区はごみの埋め立て処分によって造成されたエリアだ。海の森大橋が架かる内側埋立地と外側埋立地との間の水路は、東京五輪でカヌーやボートの競技が催される「海の森水上競技場」となる。臨港道路南北線は五輪の大会期間中、選手や関係者の輸送路として活躍する見込みだ。

 ただし、国土交通省と東京都が臨港道路南北線を整備したのは、五輪のためではない。「貨物ファースト」ともいえる別の目的があった。

 東京港の沿岸部にはコンテナ埠頭が多数ある。外側埋立地の一画でも、新たなコンテナ埠頭の整備が続いている。

中央防波堤外側埋立地で整備が進むコンテナ埠頭を西側から望む。写真中央やや左奥に海の森大橋のアーチが見える(写真:日経クロステック)
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 中央防波堤地区からは、臨海トンネルや東京ゲートブリッジがある東京港臨海道路を使って東西に移動できる。また、都心部に向かう南北方向の移動は、既存の青海縦貫線を利用すればよい。

 ところが、貨物取扱量の増加に伴って近年、トラックやトレーラーなどによる深刻な渋滞が周辺で発生。臨港道路南北線は、こうした都市の物流機能を裏方で支える混雑緩和の切り札として整備されたのだ。臨港道路南北線および接続道路の概要は以下の通り。

・開通区間:10号地その2地区(江東区有明4丁目)-中央防波堤外側地区(同区海の森3丁目地先)
・延長:約3.7km
・車線数:往復4~6車線
・事業期間:2014~20年度
・総事業費:約1900億円
 前後のアプローチ道路を含めたトンネル区間を国土交通省が、海の森大橋や東京港臨海道路との接続部などを東京都がそれぞれ整備した。工事期間は15年10月から19年11月。海の森大橋や海の森トンネルといった名称は、一般公募で19年12月に決定した。

約4年の短工期で完成した海の森トンネル
 報道関係者に公開された開通前日、筆者はまず、中央防波堤内側埋立地から有明地区方面に向かってみた。

 内側埋立地の周辺に一般車はほとんど見かけない。代わりに大型トラックが目立つ。お台場との距離はそう遠くないものの、周辺に商業施設や観光地がないので、当然といえば当然だ。

 海の森大橋の北側から海の森トンネル方面を望む。左手には東京二十三区清掃一部事務組合が運営する中防不燃ごみ処理センター、右手には東京都建設発生土再利用センターがある。正面奥には、お台場のパレットタウンにある大観覧車も見える。

(写真:大上 祐史)
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 海の森トンネルの入り口が見えてきた。陸上のアプローチ道路を含む総延長は2459.5mある。

(写真:大上 祐史)
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 掘割になったアプローチ道路を進み、海底トンネルへ向かう。

(写真:大上 祐史)
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 海の森トンネルの海底部は沈埋工法で施工した。沈埋函と呼ぶ巨大な箱型のトンネルを海底に沈めて設置する工法だ。約1年前の19年7月には沈埋函の完成を披露する見学会が催された。沈埋函の据え付けから1年足らずで道路が供用されたことになる。
(関連記事:お台場の先で海底トンネルひそかに貫通、五輪の輸送路にも)

(写真:大上 祐史)
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 沈埋工法には以下のような特徴がある。

海底の浅い場所に設置できるので、前後のアプローチ道路を含めた総延長を短くできる
海底の大きな支持力を必要としないため、軟弱地盤にも対応できる
造船所のドックなどで製作するため、水密性が高く高品質なトンネルを築造できる
 海の森トンネルの沈埋函は、7つの函(1~7号函)で構成されている。1つの函は長さ約134m、幅約27.8m、高さ約8.35mで、これまでに国内で製作した沈埋函の中では最長だ。ドックなどで製作した後、現地へ曳航(えいこう)して海底に沈めた。7つの函の延長は合計で930.8mになる。

(資料:国土交通省)
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 この規模の沈埋トンネルは通常、8年から10年の工期を要する。しかし、海の森トンネルは約4年という短い工期で完成した。工期を短くするため、以下のような工夫を盛り込んだ。

・沈埋函の数を減らす
・陸上部のアプローチ道路の勾配を大きくして、施工延長を短くする
・沈埋函の最終接合の継ぎ手を省略できる「キーエレメント工法」を採用する
・沈埋函の製作場所をドックと海上に分散する
 道路の側面には消火設備や非常口がある。非常口の扉を開けると、安全な避難通路を通って地上へ避難できる。

(写真:大上 祐史)
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 トンネル内を車で走行していると、いくつかの継ぎ目がある。これは沈埋函の接合部ではなく、沈埋函のクラウンシール継ぎ手部分の舗装面伸縮装置になる。

(写真:大上 祐史)
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 クラウンシール継ぎ手は、沈埋トンネルの不等沈下や地震動に伴う大変形に追従できるように、函体内部に設けた可とう性の継ぎ手だ。従来の一般的な沈埋函の端部に設ける継ぎ手よりも、2倍以上の変形吸収性能を持つ。

五輪で世界にお披露目できるか
 折り返して、今度は臨港道路南北線を有明地区から中央防波堤地区方面へ戻る。

(写真:大上 祐史)
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 海の森トンネルを抜けると、中央防波堤内側埋立地に出る。直進して海の森大橋を渡ると、外側埋立地へ行ける。外側埋立地では、臨港道路南北線が東西方向に走る東京港臨海道路に接続する。

(写真:大上 祐史)
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 海の森大橋は、内側埋立地と外側埋立地の間にある東西水路をまたぐ。橋長249.5m、幅員34.3m、鋼量約6300t。アーチ橋の一種で、厳密には鋼単純ニールセンローゼ橋と呼ばれる。

(写真:大上 祐史)
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 海の森大橋の架設は、長大なアーチを海上に浮かべた台船から一括架設するという難しい工事だった。
(関連記事:アーチを台車ごと船に載せ一括架設)

 まず、架設地点から400mほど離れた場所でアーチを地組みする。次に、アーチを載せた多軸台車ごと台船に移動。「ロールオン」と呼ぶ手法だ。その後、台船で架設地点まで運び、潮位変化などのタイミングを見計らってアーチを橋台に据え付けた。

(資料:国土交通省)
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 ロールオン作業はまず、あらかじめ編成しておいた多軸台車を台船に載せて海上から運搬し、地組みしたアーチの下へ滑り込ませる。次に、アーチを多軸台車で支え、台船に移動した。

(資料:国土交通省)
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 海の森大橋の銘板は、小池百合子東京都知事による揮毫(きごう)だ。漢字と平仮名の2種類が橋の両側に設置されている。

(写真:大上 祐史)
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 海の森大橋が架かる東西水路は、両端を締め切って「海の森水上競技場」として整備した。東京五輪ではカヌーやボートの競技を実施する。五輪後も国際大会が開催できる競技場や選手の育成拠点として使われる計画だ。

海の森水上競技場のイメージ図。図の左上に海の森大橋が見える(資料:東京都オリンピック・パラリンピック準備局)
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 海の森大橋を外側埋立地に向かって進む。

(写真:大上 祐史)
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 東京港臨海道路との交差点に着いた。直進すると中央防波堤外側コンテナふ頭、左折すると東京ゲートブリッジへ向かうことができる。

(写真:大上 祐史)
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2012年に開通した東京ゲートブリッジを東側から望む。写真奥が中央防波堤地区(写真:日経クロステック)
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 海の森大橋や海の森トンネルの開通によって、物流機能の効率化や国際競争力の強化などが期待できる。東京五輪が開催され、各国のメディアを通して世界の人々の目に入ることを願うばかりだ。』