構造家が間近で見たレンゾ・ピアノのすごさ(前編)

https://xtech.nikkei.com/kn/atcl/bldnews/15/101200954/ 

『近年のインバウンド需要を追い風に、次々と商業施設の建て替えが進む東京・銀座――。数寄屋橋交差点の近くに立つ「メゾン・エルメス」はレンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップ(RPBW)が設計し、2001年にオープンした。地震時に“浮き上がる柱”の構造を持ち、洗練されたデザインのなかに日本の技術が宿る現代建築だ。

構造設計を担当したArup Japanシニアアソシエイトの金田充弘氏は、「レンゾ・ピアノは初め、ガラスブロックをカーテンのように上から吊り下げたいと話していた。ベールに包まれたような透明な内部空間を求めていたので、それを実現するために必要かつ主張しないテクノロジーを考えた」と語る。

 ビルは地下3階、地上11階。柱を極力細く見せるため、地震力は店舗の背後の架構で受けるようにした。そうすることで、ビルは細長い敷地に合ったスレンダーな構造体となる。加えて、地震時に浮き上がる仕組みの柱とすることで、そうでない柱に比べると引張力を3分の1以下に抑えられ、550mm角まで柱を細くできた。

 「地震時に浮き上がる柱は、世界初の試みだった。だが、カリフォルニア大学バークレー校に通っていたとき、米・サンフランシスコにあるゴールデンゲートブリッジの橋脚を補強する実験をしていたので、浮き上がることで地震力を受け流すことはもともと頭にあった。メゾン・エルメスで突然思い出したのは、それほど追い込まれていたからかもしれない(笑)」と、金田氏は振り返る。

とはいえ、レンゾ・ピアノ氏や、クライアントのエルメス担当者は浮き上がる柱の構造を受け入れてくれるだろうか。プレゼンテーションの前、金田氏は不安だったという。だが、浮き上がることで地震力を受け流すコンセプトを伝えると、両者ともすぐに合意した。「説明の際に、同様の構造で長年立ち続けている五重塔を例に出したことで、すんなりと納得してもらえた」と金田氏。

 実際に設計が進むなかで金田氏が衝撃を受けたのは、RPBWのつくるスタディー模型は圧倒的に高いクオリティだったことだ。日本では紙やポリスチレンフォームなどで模型をつくることが多い。一方でRPBWがつくる模型は木がベースだ。それぞれのメリットはあるが、文化の違いを感じたという。

 「模型の素材に対する感覚が研ぎ澄まされていて、模型でも作品のようなクオリティ。設計者というよりは、船大工さんがつくる模型のようで、そのまま持って帰りたくなるようなものだった」

またあるときは、RPBWのパリオフィスに行ってみると、メゾン・エルメスの1層分の原寸大モックアップが用意されていたことがあった。まだ設計の途中にもかかわらず、設計事務所が原寸大で用意するのは非常に珍しい。

写真は、レンゾ・ピアノ財団の中庭に置かれている高さ10m以上の巨大な模型。ニューカレドニア・ヌメアにあるジャン・マリー・ティバウー文化センターを設計する際に使った(写真:日経アーキテクチュア)
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 「今ではCGなどで完成イメージをクライアントに見せられるが、それでも分からない部分はある。ましてや15年以上前の設計当時、ガラスを通した光の印象を原寸大で確認することは非常に重要だった。“感覚的に理解する”というものづくりの精神を学ぶ機会となった」

 RPBWでは、プロジェクトの設計依頼を受けて契約する際、必ず原寸大モックアップの制作をクライアントに説明し、承知してもらう。そして原寸大のモックアップを見ながらクライアントと細部まで確認し、意見を交換するようにしている。

 設計の完成品を最後に押し付けるのではなく、クライアントと設計過程を共有しつつ、納得のいく建築を目指すレンゾ・ピアノ。おそらくそうしたクライアントとのコミュニケーションの取り方も、必要性を感じているだけでなく、心底、ものづくりが好きだからこそ生まれた姿勢なのかもしれない。』