新材料「ゴム×プラスチック」に大反響、夢かなうかブリヂストン

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/04454/

『ブリヂストンが開発した新材料「SUSYM(サシム)」。その特徴はゴムとプラスチックが分子レベルで結合し、両材料の機能を併せ持つこと。同社は「両者を共重合させた世界初の材料」と胸を張る。

ゴムとプラスチックを分子レベルで結合
サシムは、ブリヂストンが独自に開発したガドリニウム化合物を重合触媒に用いて、ゴムとプラスチックを分子レベルで結合させたポリマー「SUSYM(サシム)」の生成に成功した。(出所:ブリヂストン)

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最大の魅力は「技術者に夢を見させる力」
 サシムはゴムのように弾力性があり、プラスチック並みの強度を持つ。例えばくぎを刺してもなかなか穴が開かない。熱可塑性を持ち、穴が開いたり傷が付いたりしても、熱を加えるだけで塞がってすぐ修復できる。さらに材料の組み合わせ方や製造条件で特性を大きく変えられるという。

サシムの強度の高さ
サシムはゴムの伸びとプラスチックの強さを併せ持ち、くぎを押し付けて局所的に力を加えても穴が開きにくい。(出所:ブリヂストン)
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サシムの修復性の高さ
サシムは傷ができても(上)、熱を加えればプラスチック系分子が溶けて傷が塞がる(下)。(出所:ブリヂストン)
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個別の特性それぞれもさることながら、サシム最大の魅力は「技術者に夢を見させる力」だろう。

 ブリヂストンは2019年の東京モーターショーで、サシムで造ったコンセプトタイヤを披露した。驚いたのはその反響だ。さまざまな企業の技術者がやってきてはサシムのタイヤ以外への活用法を提案してきたのだ。

サシムのコンセプトタイヤ
2019年10月に開催された「東京モーターショー」で展示したサシムのコンセプトタイヤ。赤い部分は簡単に曲げられるが、白い部分は力を入れても容易に曲げられない。(出所:ブリヂストン)
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 例えば「フィルム状に成形して、製品の透明な部分の強度を高められないか」、あるいは「破損してもすぐに修復できる自動車のボディーや内装に使えないか」といった提案だ。いずれもブリヂストン自体が当初は考えもしていなかった用途である。従来にない特性を有するサシムの可能性に多くの技術者が気付き、多様な用途を思い描かせたのである。

 こうした反響を受け、ブリヂストンもサシムの可能性に期待し始めた。先端技術担当フェローの会田昭二郎氏は、「さまざまな特性のサシムが造れる。その可能性は無限に広がっている」と話す。

ゴムより強く成形が容易で透明シートも可能
 サシムはブリヂストンが開発した希土類金属のガドリニウム化合物*1を重合触媒にして、プラスチック系モノマーとゴム系モノマーを共重合させたポリマー全般を意味する。同社が2018年5月に発表した「High Strength Rubber(ハイストレングスラバー)」は、そんなサシムの第1弾だ。くぎを刺してもなかなか穴が開かなかったり、熱を加えると傷を修復できたりする特性はサシムの特性バリエーションの1つとなる。

*1 ガドリニウム 原子番号64の元素(Gd)。希土類金属の1つ。
 同社によると、ハイストレングスラバーの耐亀裂性は天然ゴムのおおよそ5倍以上、引っ張り強度は1.5倍以上、耐摩耗性は2.5倍以上だったという。

 通常のゴムは先端が鋭利なくぎを押し付けるとすぐに穴が開いてしまう。サシムは局所的に力がかかっても、均質に分散したプラスチックの分子が破断に堪えるのでなかなか穴が開かない。一定の温度に達すると溶けて融着する熱可塑性もプラスチックに由来する特性の1つ。一部が破断しても熱を加えれば融着して修復される。含有するプラスチック分子の長さの調節により融着温度も任意に調整できるという。

熱可塑性は成形性の高さにもつながる。プラスチックと同様に押し出し成形やプレス成形ができる。例えば、フレーク状にしたサシムを型にはめてプレスするとシート状に成形できる。こうしたレベルなら、従来のプラスチックやゴムと同程度のコストで成形加工が可能だ。

ガドリニウム化合物触媒を独自開発
 なぜプラスチック系モノマーとゴム系モノマーを、分子レベルで結合できたのか。鍵を握るのは重合触媒の素材に選んだ希土類金属のガドリニウムだ。

 合成ゴムやプラスチックは原料となる低分子のモノマーを結合させる重合反応により高分子化合物(ポリマー)を造る。重合反応を促進するのが触媒の役割だ。例えば、合成ゴムはニッケルやコバルトなどを触媒に使い、ブタジエンやイソプレンなどのモノマーを重合させる。プラスチックはエチレンやプロピレンなどのモノマーを重合させる。

 では、ゴムを造るモノマーとプラスチックを造るモノマーの2種類を用意して重合させればゴムとプラスチックの特性を併せ持つポリマーができるかというと、そう簡単ではない。ゴムとプラスチックでは重合形態が異なり、使われる触媒も異なる。ゴム用の触媒はプラスチックを造るためには使えず、逆もしかりだ。これまではプラスチック系モノマーとゴム系モノマーを交互に結合させる都合のよい触媒が見つからず、プラスチックとゴムの特性を併せ持つポリマーを生成できなかった。

 しかし、希土類金属を触媒に用いるとまれにゴムモノマーがプラスチックモノマーと結合すると以前から知られており、希土類金属を含む触媒を形成する炭素や水素などの構成を変えると共重合の頻度が高まると分かってきていた。

 ブリヂストンはこの点に着目。触媒分子の中で炭素や水素などをどのように配列するかという構成を「デザイン」して、共重合の組み合わせをコントロールする手法を確立した。これがプラスチックとゴムのいいとこ取りをしたサシムの開発につながった。

 ブリヂストンの会田氏は「サシムの特性は、ゴム分子とプラスチック分子の分子量と並べ方で変わる」と話す。開発の背景には「ここ2、3年の重合触媒を設計するためのシミュレーション技術の進歩が大きい。新たなガドリニウム触媒の設計手法を開発できた」(会田氏)と明かす。この知見を応用すると触媒を適切に設計し、原料となるモノマーの量や比率、重合反応させる際の温度や圧力などいろいろなの条件を変えると生成されるポリマーの特性を自由自在に変えられる。

サシムが秘める「脱タイヤ」の可能性
 2020年8月時点でサシムを使った製品はまだ商品化に至っていない。タイヤ用途での実用化に向けた開発を進める一方でブリヂストンは、他社とのコラボレーション(共同作業)などによる、サシムの幅広い応用に期待をかける。成功すれば、同社が狙う「脱タイヤ」を実現するための起爆剤となる可能性を秘めているからだ。

 「タイヤの製造・販売は当社の事業の土台だが、サシムはタイヤ以外でももっと幅広く社会に貢献できる可能性がある。素材メーカーに技術供与したり、興味を持ってくれた企業とコラボレーションしたりして共創関係を築き、新しい価値を持つ製品を生み出したい」(ブリヂストンの会田氏)

 1984年に「ブリヂストンタイヤ」から「ブリヂストン」に社名変更したのに象徴されるように、「脱タイヤ」は同社の中長期的なビジョンの1つだ。グループ会社の「ブリヂストンタイヤジャパン」が2020年10月には「ブリヂストンタイヤソリューションジャパン」に社名変更して、タイヤを中心とした卸販売事業に加え、ソリューション事業を強化するのも、「脱タイヤ」姿勢の一環といえる。

 プラスチックとゴムの特性を併せ持ち、タイヤ以外での多様な用途が想定される——。そんなサシムは、ブリヂストンにとって「脱タイヤ、脱ゴム」を実現し、新たなビジネスフロンティアを開拓する「超材料」になる可能性がある。』