コロナ対策でASEAN支援 政府、対中国で米とくさび打つ

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『政府は東南アジア諸国連合(ASEAN)の新型コロナウイルス対策を支援する。茂木敏充外相が8月に各国を訪問し、医療機器や物資の供給協力を提案する。コロナ支援を通じ、中国に傾斜しないよう米国とくさびを打つ。

茂木氏は12日からまずシンガポールとマレーシアを訪れた。20日からはパプアニューギニア訪問に続いて、カンボジア、ラオス、ミャンマーの東南アジア3カ国に足を延ばす。既に医療用の病床や救急車などを供与すると決めている。

この3カ国にタイとベトナムを加えた「メコン地域5カ国」とは7月、医療機材など総額116億円相当を支援すると合意した。茂木氏は支援の方針を改めて伝える。

コロナ対策で各国との往来を規制して以降、これ以外の海外出張は英国のみ。東南アジアを中心に選んだのは中国を意識した結果だ。

外務省幹部は「ASEANを日本や米国の側につなぎ留めなくてはいけない」と説明する。

中国はコロナ対策で医師団や医療物資を送る「マスク外交」を展開する。ASEANは重点地域の一つだ。医療体制が脆弱で海外からの支援を必要とする国は多い。経済だけでなく医療でも中国への依存を深めて影響力を高める狙いがある。

たとえば王毅(ワン・イー)外相は7月30日、インドネシアのルトノ外相と電話し、コロナのワクチン開発協力を約束した。東南アジアで感染者が多いインドネシアにとっては重要な支援となる。ミャンマーやラオス、カンボジアはもともと中国と近い関係にある。

日本政府が見据えるのは9月のASEAN地域フォーラム(ARF)から始まる一連のASEAN関連の国際会議だ。

ポンペオ米国務長官が7月に南シナ海での中国の主張を「完全に違法」と断じる声明を出した後、初めて日米中などの外相や首脳が南シナ海問題を協議する場となる。

ASEAN外交筋によると、7月に開いたテレビ会議による次官級の準備会合で米中は早くも火花を散らした。スティルウェル米国務次官補が南シナ海問題で国際法の順守を訴えると、中国の羅照輝外務次官は「米国は国連海洋法条約に入ってから批判すべきだ」と切り返した。

ASEANは南シナ海問題で一枚岩ではない。中国と領有権問題を抱えるフィリピンでさえ「米中いずれとも対峙するつもりはない」(ドゥテルテ大統領)と等距離を保つ。米中にとってASEAN各国の支持をどう取りつけるかが、南シナ海問題で優位に立つために重要になる。

コロナ対策と経済回復への協力は有効な外交手段となる。フィリピンやインドネシアではコロナの感染拡大が止まらず収束の見通しが立たない。

2020年4~6月期は多くの国でマイナス成長に陥るなど経済の落ち込みも深刻だ。それだけに米国は中国のコロナ支援を警戒し、日本などの友好国と連動してASEANを支援する。

ポンペオ氏は3日、インドネシアのルトノ氏との電話協議で、中国と同様にワクチンの開発協力を呼びかけた。南シナ海問題に関し国際法を尊重する方針も確認した。

シンガポール、ブルネイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンのASEAN各外相と立て続けに電話し、中国に対抗する姿勢を鮮明にした。米国の同盟国であるオーストラリアも6月末、ASEANとの外相会議を開いて経済支援を約束した。

日本にとってASEANとの外交は特別な意味がある。米国から遠い東南アジアで影響力を持つことが日本の価値を高めるカードになってきた。

岸信介元首相や第2次政権での安倍晋三首相は初の外遊先に東南アジアを選び、米国と付き合う土台とした。11月の米大統領選でトランプ氏とバイデン氏のどちらが勝利したとしても、東南アジアとの関係は日本外交の武器となる。』