キングメーカー、二階俊博幹事長の視線

https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00606/

『ひと声で給付金が一律10万円 に
「百戦錬磨、自民党で最も政治的技術を持った方だ。まさに政治のプロだ」
首相・安倍晋三は自民党幹事長・二階俊博をこう持ち上げる。

その二階は国土強靭化以外の政策には関心を示さず、政策にはむしろ疎い。「切れ者」と言われることはなく、ふだんは茫洋として、つかみどころがない人物とみられている。会談中、眠ってしまうこともある。81歳という高齢のせいか、足腰も弱くなった。

にもかかわらず、二階がひと言発すれば、政府が動く一方、自民党内は静まる。安倍が気遣うだけでなく、「ポスト安倍」の面々も二階の支持を得ようと躍起になっている。二階とはどんな人物か。二階は「ポスト安倍」に誰を据えようとしているのか。

二階の力を知らしめたのは2020年4月、新型コロナウイルス対策の一環として国民全員に一人当たり一律10万円の特別定額給付金を配ることにしたことだった。

政府は二階ら自民、公明両党の了承を得て、4月7日の臨時閣議で、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策と今年度補正予算案(第1次)を決定した。収入が大幅に減少した世帯に30万円を給付することが柱だった。ところが、一週間後の14日、二階がいきなり記者団に「一律10万円を求める切実な声がある」と表明した。

二階の発言に安倍は驚き、党幹部らに自ら問い合わせの電話を入れるほどだった。一方、公明党と支持母体である創価学会が強く反応した。10万円はもともと公明党が学会からの要望を踏まえ、政府に要求してきたこと。しかし、政府が30万円と決めたため、断念せざるを得なかった。

公明党は自分たちがいったん諦めたことを二階が打ち上げたため、お株を奪われた形になり、公明党代表・山口那津男が15日、首相官邸に乗り込んで安倍に直談判。その後、山口は電話で連立離脱をほのめかしたため、安倍はやむを得ず、方針を転換した。

与党がいったんは了承した政府の目玉政策を否定したため、政府が慌てて政策変更し、補正予算案の閣議決定をやり直すというのは前代未聞のことである。それを主導したのが二階と公明党だった。

この顛末(てんまつ)の本当の責任は、政府の方針を一度はのんだ二階と公明党にある。しかし、10万円給付が世論の高い支持を得たため、二階や公明党の評価が上がってしまった。その分、安倍政権の求心力が落ちたが、安倍は「結果的にはあれで良かった。あのまま突っ込んでいたら、もっと批判されていただろう」と認めざるを得なかった。

自民党の党則を変えてまで安倍の3選を実現
二階はまた、中国の習近平国家主席の来日問題でも力を見せつけた。香港での国家安全維持法(国安法)施行を非難し、国賓来日の中止を求める決議を行う動きが7月初め、自民党外交部会と外交調査会の合同会議で表面化した。これに対し、二階は「日中がここまで来るには先人たちの大変な苦労があった。外交は相手のあることで、慎重の上にも慎重に行動するべきだ」(7月7日の記者会見)と強い不満を表明した。

党執行部と外交部会・調査会側が調整した結果、決議は党の総意ではなく、外交部会と外交調査会によるものとし、「中止を要請せざるを得ない」と表現も後退させた。「中止」という文言は残ったものの、中国側の反発は最小限に抑えられた。

保守勢力からみれば、香港の現状からみて中国主席の来日中止を求めるのは当然なのだろう。だが、日本は米国のように中国とケンカできるほどの力がない。日本が来日中止を求めなくても、中国が反対を想定される国に国家主席を訪問させるはずがない。ならば、現実を直視し、日中関係に無用な波風を立てるべきではないというのが二階の判断だった。

国民への一律10万円給付に関し、安倍首相と会談後、記者団の取材に応じる自民党の岸田文雄政調会長(手前左)と二階俊博幹事長(同右)。2020年4月16日、首相官邸

二階の実力を現す例をもう一つ挙げると、自民党総裁の任期を「1期3年、2期まで」という党則を「1期3年、3期まで」に変更する道筋を付けたのは二階だった。二階は総務会長時代の2016年5月の連休明けに、私に早くもこう漏らしていた。

「安倍首相は長期政権を狙っている。佐藤栄作さんの7年8か月よりも、もっと長くやろうと思っているんじゃないか。他の人がどう思っていようが、首相官邸にいると首相は自分にしかできないと思うようになるもんだよ」

この時、私は二階に「党則を変えるのは難しいのでは?」と尋ねた。しかし、二階はいとも簡単に「党則なんて変えてしまえばいいんだ」と言い放った。大胆不敵、二階は鋭いカンで安倍の胸の内を洞察し、同年8月、幹事長に就任すると、任期延長を実現した。今、安倍が長期政権を維持できているのも二階のお陰ということになる。

驚くほど菅官房長官とよく似た歩み
こういう世の中の流れ、トップの心理を読む判断力はどうやって身につけたのだろうか。ここは官房長官・菅義偉と比較しながら分析したい。国会議員になるまで、二人の歩みは驚くほど似ている。

まず、秘書出身だ。二階は元建設相・遠藤三郎(旧衆院静岡2区選出)の、菅は元通産相・小此木彦三郎(旧衆院神奈川1区選出)の秘書だった。

秘書出身の政治家の特徴は主人に忠実なことだ。主の指示は絶対であり、違うと思っても指示の実現に全力を尽くす。かつ、余計なことは言わない。表で目立つのはあくまで議員本人だ。秘書は影で支える。そんな生活を二人とも11年間送った。

二階も菅も、秘書の時代に政治家としての原点が培われた。つまり、忠誠心が人一倍強く、今は安倍に示されている。これは官僚出身者とは大きく違うところだ。官僚出身者は「自分は一番頭が良い」と信じている人が多く、時に主を見下す。

二人のもう一つの特徴は地方議員出身であることだ。二階は和歌山県議を、菅は横浜市議をそれぞれ2期8年務めた。地方議員出身者は議会で駆け引きを習熟し、押したり引いたりしながら物事を実現していくのに手慣れている。

普段、丁寧に接しながら、時に威圧する。この人に逆らったら潰される、という恐怖心が政治家の力となることを二人ともよくわかっている。

余談だが、二人は休みをほとんど取らない。いや、休みを取れない。忙しいからではなく、忙しく働いていないとかえって落ち着かない性格だからだ。

石破、岸田に秋波送るも、本音は菅か
こうした二階が今後、どう動いていくか。政権の行方はもちろん、「ポスト安倍」に誰が選ばれるかにも影響を与える。二階の影響力の基盤となるのが二階派の数だ。

二階は2003年11月、自民党に復党し、旧保守新党議員らによる「新しい波」というグループを結成し、会長に就任した。その後、09年8月の衆院選で自民党が惨敗した時には所属議員が二階を含め3人にまで減った。その後、数を増やし、7月16日の例会で、元民主党の長島昭久衆院議員が入会。二階派の所属議員は47人となり、岸田派と並ぶ党内第4派閥となった。

その数を基盤に二階は、ポスト安倍でも主導権を握ろうとしている。二階は6月8日、ポスト安倍の候補の一人、元幹事長・石破茂から石破派パーティーへの出席を求められると快諾し、その後の記者会見で「将来、さらに高みを目指して進んでいただきたい期待の星の一人だ」と石破を持ち上げた。二階は7月2日、石破と覇を競う政調会長・岸田文雄と双方の側近を交えて都内のホテルで会食し、岸田を「前途洋々だ。次を期待している」と激励した。

二階は自民党の次期総裁選で石破、岸田のどちらかを推すのだろうか? 私の取材では現段階で、どちらも推すつもりがない。二階は最近、周辺に二人について「彼らに総理になって何をやりたいかがないんだ。上に行きたい、総理になってみたいというだけだろ」と語っている。

なのに、なぜ二階は二人に秋波を送るのか? 彼らについて否定的なことを言えば、二階に損になるからだ。政治家は基本的に損得勘定で動く。得になるならばやるし、損になることが分かっているならやらない。今、二階が彼らに批判的なことを言っても一文の得にもならない。

政局の次の焦点は、9月の自民党役員任期切れに伴って行われるとみられる内閣改造・党役員人事だ。二階は9月8日まで幹事長職を続ければ、田中角栄・元首相(1497日)を抜き、歴代最長となるが、それを機に辞めるつもりはさらさらなく、幹事長を続投したい考えだ。

その目標を達成するために、石破、岸田から恨まれるようなことをするのは得策ではない。二階が幹事長を続投するなら、自分を推してくれるかもしれないと二人に思わせておいた方がいい。また、先行き、政局がどう動くか分からない時に、カードはできるだけたくさん持っていた方がいいに決まっている。

ならば、二階は本当は誰を安倍の後継に据えたいと考えているか。私は菅が念頭にあるのではないかと見ているが、どうなるかは分からない。(敬称略)

バナー写真:時事通信のインタビューに答える二階幹事長(時事)

この記事につけられたキーワード
自民党 安倍政権 後継総裁 二階俊博』