「台湾併合?ならば戦争だ」中国に激怒のトランプが蔡英文に送った親書とは

『米中対立が激化する中、台湾への米国官僚の公式訪問を巡り、中国に動揺が走っているようです。トランプ大統領が習近平主席に対して「台湾との友好というカード」を切ってきた理由と意図はどこにあるのでしょうか。元国連紛争調停官で国際交渉人の島田久仁彦さんは今回、自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』でその背景を解説するとともに、トランプ大統領が台湾の蔡英文総統に送ったとされる「親書」の内容を紹介。さらに米中間の緊張は「破裂寸前の状況にまで高まっている」と分析しています。』

『もう後戻りはできない。激化する米中対立
これまで3週間にわたってお話ししているように、米中対立の激化が止まらず、すでに引き返せない一線(Point of No Return)を越えてしまったような雰囲気さえ漂います。

対立を煽っているのはトランプ大統領のアメリカなのか?それとも、習近平国家主席が率いる中国なのか?

その答えは見方によって変わってきますが、確実に言えることは【双方とももう退くに退けないところまで来てしまった】ということでしょう。

一部メディアの報道を見ていると「もしバイデン氏が次の大統領に選ばれたら…」という希望的な観測の論調もありますが、すでに米国内では超党派で対中強硬姿勢を強めていますし、ビジネスも国民も、“中国離れ”を加速させていますので、次の大統領が誰であろうと、アメリカが中国批判と追及の手を弱めることはなさそうです。そのことは、すでに北京の政府、特に中国共産党内でもシェアされているようで、「アメリカに対して甘い顔をすべきではない」とか「これ以上、中国やアジアを欧米の好きなようにはさせない」との論調にも押され、中国側も対米強硬策の手を緩めることが出来なくなってきています。

3年以上続いている米中貿易戦争に加え、南シナ海での威嚇行為を巡る対峙などは、Business as Usualと言えますが、コロナウイルスのパンデミックを機に、アメリカの中国批判は「経済・安全保障問題」から「中国共産党を悪とみなすイデオロギー戦争」に発展しました。それに応酬するかのように、中国も強硬策がより強化されていくという悪循環に陥っています。

トランプが選ぶ「戦場」は香港、そして台湾
その米中対立が国際情勢に大きな影響を与える火種になりそうなのが、香港における香港国家安全維持法施行による【香港の中国化への動きに伴う一国二制度の終わり】と【国家安全維持法による外国人および民主派の取り締まり】と、【台湾を巡る攻防】、そして【南シナ海で中国が主張する領有権を巡る周辺国を巻き込んだ戦い】です。

南シナ海を巡る対峙は、これまでこのコーナーでも触れてきましたが、アメリカ政府の対中強硬策に込めた“覚悟”を見せるという意味で、中国が建設した人工島と軍事施設に対する攻撃が行われ、それに中国も、国内対策とともに、One Asia構想の進展のために反撃を行う可能性が高いかと考えますが、今後の対立の“真の核”になりそうなのが【台湾を巡る米中の攻防】です。

台湾は、中国共産党と北京政府にとっては、習近平国家主席の言葉を借りると【核心的関心であり、中国の不可分の国家の一部】との認識で、1979年に米中国交正常化とアメリカによる台湾との国交断絶以降、アメリカの歴代政権も米中接近のシンボルとして、台湾との公的な人的交流を避けてきました。

しかし、トランプ政権になり、その“対中忖度”は消え去り、アメリカは対中強硬策の有効なカードとして【台湾との友好というカード】を切るようになりました。2018年9月には台湾旅行法を制定し米台間の公的交流を推進する動きを見せ、ついに今週、その法を適用してアザー米厚生長官が台湾を公式訪問しました。北京政府の外交筋曰く、これは【アメリカ・トランプ政権による対中宣戦布告に近い】と表現されるほどのショック(Body Blow)だったようで、「アザー長官の台湾公式訪問は中国に対する著しい侮辱」とコメントするなど動揺しているようです。

アメリカ政府としては、表向きは「コロナ対策で非常に功を奏した台湾政府の封じ込めについて学び、米台間で協力を深めたい」との理由が掲げられていますが、それは暗に中国の情報隠蔽を暗に糾弾し、また5月に米中対立のネタにもなったWHO総会への台湾の参加の後押しとそのための戦略策定という目的もあったようです。』
『トランプが蔡英文総統に送った「親書」の本気度
そして表には出てきませんが、習近平国家主席が自らの政権任期内で成し遂げたいゴールNo.1である“台湾併合”を中国政府が実行しようとした場合、具体的にアメリカとアメリカ軍がどのような行動を取るのかという内容にまで議論は及んでいるようです。

アメリカ政府側の首席代表はアザー長官でしたが、この訪問にはホワイトハウス、ペンダゴン、国務省などからも幹部が帯同しており、情報によると、アザー長官はトランプ大統領からの“親書”(外交関係がないので、呼称については要チェック)を蔡総統に手渡し、有事の際のアメリカのフルコミットメントについて言及したのではないかと推察できます。

この【台湾トリガー】をトランプ大統領とアメリカ政府に弾かせたのは、国際世論(注:欧米の見解)を無視して進められる香港国家安全法に基づく中国政府による民主派勢力に対する弾圧です。

先週にはアップルデイリーのジミー・ライ氏が逮捕・拘束され、その後、Next Digital本社への強制捜査の実施を行うことで、香港社会が欧化してきた報道・言論の自由を踏みにじり、最近では“民主化・学民の女神”と呼ばれ民主化運動の中心的人物であった周庭(アグネス・チョウ)女史を拘束して、再度盛り上がる民主化運動に対して冷や水を浴びせる動きを取りました。ある情報筋の言葉を借りれば「民主化運動と民主派に対する強力なパンチ」を見舞ったと言えます。

これに対してトランプ政権は、キャリー・ラム香港政府行政長官をはじめとする11名を制裁対象にし、それに応酬する形で中国はMarco Rubio・Ted Cruise両上院議員を含む11名を制裁対象にするという【11人制裁の応酬】を行いましたが、トランプ政権にとっての“主戦場”は、香港ではなく、カードを切ることで台湾に設定されたと言えます。

時を同じくして、中国全人代は公式に「香港立法会選挙の1年延期」を決議しましたが、大方の予想に反して民主派議員の排除は行わず、議員全員の任期を1年延長するというsurpriseを行いました。これは実際には、台湾問題カードを突き付けてきたトランプ政権の動きを受け、「これ以上、アメリカを刺激すると確信的利益と位置付ける台湾問題の“解決”(注:中国にとっての)を困難にし、台湾を舞台にアメリカとの正面衝突に繋がりかねない」との懸念から、「アメリカに対して弱腰の態度はとれないが、あまり今は刺激したくない」との習近平国家主席の“苦悩”が見て取れますが、米中間にすでに生じている様々な緊張を緩和する効果があるかどうかは不明です。

香港や台湾という中国にとっての核心的関心事項での直接的な衝突を避けたいとの思惑からか、それともピュアな覇権的、そして地政学的な関心からか、中国は“欧米諸国から制裁措置を受ける国々”を次々と取り込み、世界全体を舞台にして、何とか米欧と力のバランスを取りに行こうという動きが見えます。

アメリカの裏庭でナイフを突きつける中国
先日、スピード合意したカンボジアと中国のFTAもそうですが、中国はラオス、ミャンマー、パキスタンに経済的な支援をテコに取り込みを始めていますし、アメリカが“敵対する”イランとは現在、中国からのインフラ支援の見返りとして25年にわたりイランから原油の供給を受けるという合意を行おうとしています。

加えて、ベネズエラのMaduro政権を全面的に擁護してアメリカの裏庭である中米地域でアメリカの喉元にナイフを突きつけようとしています。

結果、6月末の国連人権理事会で行われた香港国家安全維持法の是非についての議論では、53か国の途上国が中国支持を行い、先進国27か国の中国批判を大きく上回るという成果まで取り付けました。

世界銀行の調査では、すでに一帯一路政策やコロナ支援と題した支援は68か国に提供されており、国際社会での中国の影響力拡大の規模と戦略が透けて見えます。

米欧が制裁を盾に言うことを聞かせようとする中、困っている対象国を背後から経済的にフルサポートするという巧みな戦術で支持を拡大しています(とはいえ、年率3.5%ともいわれる高利子での貸し付けが多く、債務の罠との噂もありますが)。

確実に米中を軸とした2ブロック化が進められていることが、ここからも分かります。』
『自業自得か。習近平政権が払わされる「大きなツケ」
この2ブロック化は、コロナ禍にあえぐ新興国・途上国の経済を蝕む結果になってきています。以前、このコーナーでもお話ししたように、多くの新興国がデフォルトの危機と言われるほど、COVID-19は途上国経済に壊滅的な影響を与えつつありましたが、アメリカFRBによる措置が功を奏して、世界のドル不足を緩和したことで新興国経済は力強く回復したように見えます。

ここで皮肉なのが、その恩恵を最も受けたのが、そのアメリカと戦う中国の経済です。世界銀行やIMFの最新の分析によると、恐らく今年中には中国のGDPはBefore Coronaのレベルにまで回復する見込みとのこと。もちろん米中開戦など、大きな事態が起こらなければという条件付きではありますが。

ただこの中国経済の“復活”は、東南アジア諸国の経済回復を力強く後押ししている模様です。

しかし、実際には新興国・途上国経済の完全な回復は今後も見込めないと考えます。

理由としては、日本も例外ではないのですが、COVID-19の感染拡大が止まっていない、もしくは再拡大が進行していることで、経済活動と移動の自由の本格的な再開が見込めないことがあります。

また、今回のパンデミックは先進国・途上国の別なく、世界的に大打撃を与えており、今後、長い期間にわたってと上位国に対する海外投資が回復してこないだろうとの見解が強くなってきています。

戦争か?平和か?岐路に立つ世界
さらに、コロナ禍で若者の教育が世界的に中断されており、特に途上国では、家庭の生計を立てるために若者がpart-timeで働くことを余儀なくされ、それがコロナによるDrop out、そして教育の中断の恒常化を招くのではないかとの懸念が、UNESCO(国連教育科学文化機関)の最新のレポートで述べられています。その結果、労働生産性が低下することになり、途上国経済は一般的に将来にわたって稼げる能力を失うことを意味すると言えます。

そこに加えて激化する米中対立が生む世界の2ブロック化は、国際協調の鈍化に繋がり、これまで数十年間続いてきた経済成長モデルの構造を根本から変える可能性を帯び、サプライチェーンが変質することで、途上国にとっての“成長パターン”が無くなる可能性も生まれます。

先進国も例外なく、今回の新型コロナウイルスのパンデミックの打撃を被っており、自国経済の再建に必死であるため、途上国の救済にまで手が回らず、中長期的な危機を誘発する可能性もあるでしょう。

そのような中、米中が互いに自らのブロックに各国を迎え入れるために様々な手を講じようとしていますが、中国にとって、この覇権争いでアメリカや欧州と対抗するには、一帯一路政策の下、膨れ上がらせた支援国の重度の債務超過にどのように対応できるかが問われているようです。

債務放棄要請に応じるのか、それとも減額や支払い期限延長などの限定的な対応に留まるのか。経済で支配を広げてきたそのツケに今、中国政府は直面しています。

欧米諸国も同じく自国内・地域内の復興が先決であるため、中国の苦悩の隙を突けずにいます。

その突破口となり、世界の力の趨勢を決めるのはどのような出来事でしょうか?

南シナ海での米中の武力衝突、尖閣諸島周辺で日本や台湾も交えた衝突、米イラン(そしてイスラエル)の中東での紛争勃発、ロシアやトルコが仕掛ける国際社会への“挑戦”、そして、朝鮮半島における開戦…という戦争を介したネガティブなトリガーなのか、「新型コロナウイルスに対する有効なワクチンの開発と普及の拡大」というポジティブなトリガーを米中どちらの勢力が弾くことになるのかという戦いなのか。

残念ながら私には分かりませんが、世界は確実に米中を軸に動き、そして両国間の緊張は、まるで破裂する直前の風船のように、高まっていると言えます。

皆さんはどう思われますか?』