世界に迫る無秩序の影 終戦75年、戦後民主主義の岐路

世界に迫る無秩序の影 終戦75年、戦後民主主義の岐路
本社コメンテーター 秋田浩之
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62672820U0A810C2SHA000/

『イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)による国交正常化のニュースが飛び出すなど国際情勢の動きはめまぐるしい。ただ、第2次世界大戦後に生まれた国際システムには「老い」が目立ち、世界には無秩序の影が忍び寄っている。きょう敗戦から75年を迎えた日本にとっても、進路を左右する難題だ。

戦後、米国が中心となり、2つの国際システムを築いた。平和を支える国際連合と、経済の安定を担う国際通貨基金(IMF)・世界銀行だ。

ところが米国の国力が下がるのに連動するように、両体制の影響力は衰えている。著しいのは国連だ。

2011年以降、内戦で死者が数十万人にふくらむシリア。この悲劇を前に国連の安全保障理事会は停戦をお膳立てするどころか、十分な人道支援もできていない。

■動けぬ国際機関
シリアのアサド政権を支える中ロが決議案に反対し、ことごとく拒否権を発動していることが一因だ。同年以降、中ロが振るった拒否権は合わせて約25回にのぼる。

中ロがここまで国連を骨抜きにするのは戦後、米国が主導してきた秩序を壊してしまおうと決意しているからだ。国連機関を嫌い、関与を弱めるトランプ大統領の言動は、中ロには渡りに船だ。

とりわけ気がかりなのは強大な経済力を使い、もう一つの国際システムであるIMF・世銀体制まで切り崩しにかかっている中国の行動だ。

中国は各国のインフラ建設などに融資している。重債務の途上国向け残高は4年間でほぼ倍増し、18年末までに1017億ドル(約10.7兆円)と世銀に匹敵するまでになった。世銀幹部は不安を深める。「中国の融資は基準が不透明だ。相手国との癒着や腐敗が広がる恐れがある」

中国は50年までに米国に代わる超大国になることを目標に掲げ、ハイテク分野でも米国を急追する。これが米国の警戒感に火をつけ、「新冷戦」を招いた。米国は世界の通信網や海底ケーブルから、大慌てで中国の排除に動く。

「アジアや中東、アフリカからも徹底して中国企業を締め出していく。一緒に各国に働きかけてほしい」

米政権は水面下で、日欧などに何度もこう迫っているという。米国や同盟国以外の主要インフラからも、中国を排除しようというわけだ。

米国の旗色は良いとはいえない。米カーネギー国際平和財団によると、ジンバブエやベネズエラ、イランといった強権国を含めた60カ国以上が中国と契約し、人工知能(AI)を使った中国流の都市監視システムを導入した。

米人権団体フリーダムハウスが3月に発表した分析では、自由が保障された国々の比率は19年、世界の42.6%にとどまり、09年から3.3ポイント下がった。この流れに拍車をかけようと、ロシアもサイバー攻撃などを強める。

米国は国内の政治分断に体力を奪われ、当分、秩序を立て直す余裕はない。11月の大統領選でバイデン氏が勝ったとしても、この状態は変わらないだろう。

■通商体制に変化
このままなら、通商体制も中国色に染まりかねない。日本政府当局者によると中国は最近、環太平洋経済連携協定(TPP)への関心を内々、打診してきている。米国より先に交渉に入り、主導権をにぎる意図にちがいない。

1940年代後半、世界は米ソの冷戦となり、東西陣営に引き裂かれた。米中の敵対が強まれば世界のデジタルや通信インフラが2つに割れていく恐れがある。

では、どうするか。当面、やるべきことは2つある。第1にいまの秩序を尊重し、国際ルールに従うよう、米国と友好国が中国により強く促していくことだ。日本、ドイツやフランスを含む欧州連合(EU)、英国、オーストラリアなどが対中政策を密に擦り合わせることが前提になる。

第2に米中が対立しても、せめて世界共通の課題では協力を保てる体制を整えることも必要だ。それには優先順位を明確にし、具体的な協力の目標を定めなければならない。いま最優先なのは当然、ワクチン開発などの新型コロナウイルス対策である。

1930年代、直前の大恐慌を受けて世界の経済はブロック化した。急速に国力を強めたドイツと日本、イタリアは枢軸を結成し、力ずくで英米主導の秩序を変えようと動く。それが第2次世界大戦への導火線となった。

むろん当時と単純比較はできないが、きな臭さを増す現在の潮流には、どこか30年代に重なる危うさもある。グローバル化は壁にぶつかり、東南アジアや東欧で民主主義の「模範生」といわれたフィリピンやハンガリーでも、強権化が進む。コロナ危機で各国の交流が大きく滞る今こそ、過去の教訓を大切にしたい。

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