緊張高まる南シナ海:米中が近接海域で演習実施

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『2020年7月4日、米国の独立記念日に、米海軍の2隻の空母が南シナ海に向かい、飛行訓練を実施した。米海軍は2隻の空母の他に4隻の水上艦艇を派遣している。米国メディアによれば、近年南シナ海に展開した中でも最大規模の艦隊である。しかし、この時期に南シナ海で演習を行っていたのは米海軍だけではない。

これに先立つ7月1日に、中国海軍が南シナ海で演習を開始していたのだ。しかも中国は、3つの戦区海軍(北部戦区海軍、東部戦区海軍、南部戦区海軍)に、それぞれ黄海、東シナ海、南シナ海において、同時に大演習を実施させている。中でも南部戦区海軍は、南シナ海の中でも領土紛争を抱える機微な海域で演習を実施した。西沙諸島(パラセル諸島)周辺海域である。西沙諸島は、1974年に生起した中国人民解放軍と南ベトナム軍(当時)による「西沙諸島の戦い」を経て中国が実効支配しているが、現在でも中国とベトナムがともに領有権を主張している。

中国は6月下旬に、7月1日から5日の間、西沙諸島周辺海域において海軍演習を行うと発表していた。この海軍演習に対してベトナムは強く反発し、米国やフィリピンも強い懸念を示した。米国防総省は7月2日、この中国海軍の演習について、「南シナ海情勢をさらに不安定化させる」と述べている。ポンペオ国務長官も自身のツイッターで、「南シナ海の紛争海域における中国の軍事演習が非常に挑発的であるという東南アジアの友人たちに同意する」とつぶやいた。

米中が「見える距離」でそれぞれ演習
中国は、南シナ海における海軍演習も大々的に報じている。7月4日の中国中央電視台(CCTV)の報道によれば、中国版イージス艦と言われる052D型駆逐艦は、敵の電波妨害を受ける状況下、主砲システムの目標追尾方式を迅速に変更して敵艦に対する照準を外すことなく、これを撃沈することに成功した。また、同艦隊の054型フリゲートは、高速で飛来する経空脅威に対して数発のチャフ弾を発射して大角度の変針を伴う運動を行い、ミサイルの被弾を回避する訓練を行った。

この報道を見る限り、中国海軍の水上艦艇部隊が行ったのは対水上戦と対空戦の訓練である。電波妨害等の電子戦を取り入れているものの、特別な訓練とまでは言えない。米海軍空母も、飛行作業を行なったと報じられているが、特殊な作戦行動を行ったとは報じられていない。それでも、この時期の南シナ海に注目すべきであるのは、米海軍の空母機動部隊と中国海軍の艦隊が極めて狭い海域に同時に存在していたからである。

南シナ海に派遣された空母のうちの1隻である「ニミッツ」に乗艦する第11空母打撃群司令官は、米国メディアの電話インタビューに答えて、「われわれは中国海軍艦隊を見てきたし、中国海軍艦隊はわれわれを見てきた」と述べている。それほど、米海軍空母機動部隊と中国海軍艦隊は接近していたということだ。米国メディアや台湾メディアによれば、米海軍と中国海軍が同じ海域で演習を行うという状況は極めて珍しい。この状況は偶然生起したものではない。米中双方は、意図して近い海域において演習を行ったのだ。

米中両海軍が同時に南シナ海の機微な海域に存在したのは、米中両国の相互作用の結果である。6月中旬、複数の米国メディアは、米海軍が3個空母打撃群を太平洋に展開したと報じた。米海軍は11隻の空母を保有しているが、そのうち3隻を太平洋に投入するのは異例である。数年ぶりに米国が3隻の空母を太平洋に展開したのは、中国の攻撃的な対外行動に対する米国の危機感がいかに高いかを示すものである。しかも中国が、米国をはじめとする世界各国が新型コロナウイルスとの戦いに集中している隙をついて、自らの目的を達成しようとしていることが米国の危機感をより高めた。

「力の真空」感じ、攻勢かけた中国
中国の目的の中には、南シナ海の実効支配の強化、さらにその先にある完全な掌握が含まれる。中国は、米海軍の3個空母打撃群の太平洋への展開について、新型コロナウイルス感染拡大によって能力が低下した米海軍が、そのような状況下でもプレゼンスを示す能力があることを示そうとするものだと認識している。空母「セオドア・ルーズベルト」を始めとする米海軍空母が新型コロナウイルス感染の影響で行動を低調化させたことなどを受けて、4月10日、中国共産党系メディアは、「米海軍の部隊展開能力が重大なダメージを受けている」と報じた。中国は太平洋にも「力の真空」が生じたと認識していたのだ。

こうした認識を持った中国は、4月中旬に南シナ海で海軍演習を実施し、4月19日までに、南シナ海に新たな2つの行政区を設置した。同時に、空母「遼寧」が同月11日に沖縄本島と宮古島の間を抜けて太平洋に入り、台湾東方海域を南下した後、バシー海峡を抜けて南シナ海に展開した。同月13日、中国海軍スポークスマンは、「中国海軍は、今後、このような演習、訓練を常態化する」と述べている。中国は、南シナ海および第二列島線までの西太平洋において中国海軍が海上優勢を有していることを誇示しようとしたのだ。

米海軍は、4月の段階でも黙っていた訳ではない。同月21日、米海軍は、佐世保に配備されたばかりの米国最新の強襲揚陸艦「アメリカ」と駆逐艦を南シナ海に派遣していると公表し、22日までにマレーシア沖海域に展開していることが確認された。「アメリカ」は航空機運用能力を向上させており、約20機のF-35Bを搭載して軽空母としても運用できる。「遼寧」の艦載機が18~24機とされることから、「アメリカ」は実質的に中国空母とほぼ同等の航空作戦能力を有していると言える。

しかし、米中は実際に戦闘しようとしているわけではない。どちらが優勢かは各国の認識による。中国は、米海軍の「空母」が動けないという状況を喧伝し、中国海軍が海域をコントロールしているというイメージを拡散しようとしている。同海域では4月16日ころ、中国の調査船が、マレーシアの国営石油会社が所有する調査船の近傍を航行して圧力を掛けていた。さらに中国は、6月中旬にも、南シナ海で海軍演習を実施している。

「予期せぬ衝突」の可能性も
一度、中国が南シナ海を掌握し実効支配しているという認識が、中国および東南アジア諸国に定着すれば、この認識を覆すのは困難である。実際に戦闘して中国に勝利すれば結果は明らかだが、米国にも中国と戦争する意思がない限り、米国は南シナ海においてこれまで以上に軍事プレゼンスを示さなければならない。4月下旬、オーストラリア海軍がフリゲートを派出して「アメリカ」と行動を共にさせたのは、南シナ海における米海軍のプレゼンスが下がったと中国や東南アジア各国に認識させないよう、同盟国としての役割を果たしたのだと言える。

米国は、中国に対してさらに強い圧力を掛けた。7月13日、ポンペオ国務長官が「南シナ海の大部分に及ぶ中国の海洋権益に関する主張は完全に違法だ」と声明を出したのだ。これまで米国は、他国間の領土紛争について立場を明確にしたことはなく、極めて異例の声明である。領土紛争は、イデオロギー対立と同様に落としどころがない。ポンペオ国務長官の声明は、米国は南シナ海において中国と対決する決意を示すものであると言える。

一方の中国も、米国が軍事プレゼンスを向上させ、南シナ海を掌握しようとする中国の試みを妨害していると認識し、危機感を高めている。特に中国海軍の現場指揮官レベルは、中国国内報道を見て自らが海上優勢を保持していると誤解しているかもしれない。南シナ海において米海軍が活動を活発化させれば、増長した中国海空軍と予期せぬ衝突を起こす可能性もある。中国指導部は、こうした可能性を理解しているように見受けられる。中国が日本の動向にも注目しているからだ。万が一、米国と中国が南シナ海において軍事衝突した際に、日本がどのように行動するのか、情報収集しているのである。それは、中国が、南シナ海における米国との軍事衝突の可能性を真剣に考えていることを意味する。

「常態」をめぐる認識ギャップ
こうした状況下、日本は、中国の「常態(NORMAL)」に対する認識が、日本や米国の「常態」に対する認識と異なることを認識する必要がある。日本や米国は、安定している現状が常態であると考え秩序を維持しようとするが、中国は、自らの影響力が及ぶ地理的空間が拡大することが常態であると認識し、最終的に国際秩序を自らに有利なものに変容させることを企図する。この認識のギャップが、過去に米国の対中政策を誤らせてきたとも言える。中国の挑発的行動を止めるためには、実力を見せてこれを止める他にないのである。

バナー写真:飛行訓練のため南シナ海を航行する米空母「ロナルド・レーガン」「ニミッツ」らの艦隊=2020年7月6日(Mc3 Jason Tarleton/U.S.Navy/Planet Pix via ZUMA Wire/共同通信イメージズ)』

〔ポイント:〕
1、目的は、「どちらが、この海域をコントロールしているのか」というイメージの獲得である。

2、「どちらが優勢か」ということは、周辺各国がどう認識しているのか、ということによる。

3、「常態(NORMAL)」ということの内容が、日米と中国で違っている。
 日米は、これまで通り、安定している現状と考えている。しかし、中国は、自らの影響力が及ぶ地理的空間が拡大していくことが「常態」であると認識し、最終的に国際秩序を自らに有利なものに変容させていくことを企図している。
 この中国の行動を止めるには、実力を見せて思いとどまらせる他は無いのである。

4、米中は、周辺国の認識を獲得すべく、あらゆる「手段」を投入して行動して行く…。
 
 米国は、「世界戦略」に基づいて、「世界」のあらゆる地域において1、2を行っていく…。
 二次大戦直後は、それが可能な他を圧倒する軍事力と国力を備えていた。
 しかし、現在は、それだけの力(ちから)は無い…。
 そこで、それを「補完」すべく、「理念」や「考え方」を共通する「同盟国」「有志国」を糾合し、力(ちから)を合わせて対処する…、という方向で、行動している。
(東アジアにおいては、韓国もその一つの重要なパーツであると、認識していると、思われる…。)

5、翻って、日本国としては、どうするのか、どう行動していくのか、という問題になる…。