ドイツの景気が日本よりも落ち込んでいる理由

ドイツの景気が日本よりも落ち込んでいる理由
ユーロ経済のカギ「ドイツ、自動車、財政出動」(2019/11/19 6:00)
https://toyokeizai.net/articles/-/315001

『世界的に景気の底入れを期待するムードが広がる中、依然として欧州・ユーロ圏は精彩を欠く状況が続いている。製造業PMI(購買担当者景況指数)はドイツを中心として惨憺たる状況が続いており、最新10月時点ではフランスだけが辛うじて好不況の分かれ目とされる50をなんとか維持しているような状況だ。主要国でも突出している「弱さ」の理由はどこにあるのだろうか。

最も大きな要因としては経済が外需依存構造であること、とりわけ主力の輸出品である自動車販売が世界的に停滞していることがよく挙げられる。2018年を例にとれば、世界の自動車輸出の4分の1以上がドイツ、フランス、イタリア、スペインからの輸出であるから、自動車業界全体の浮沈がそのままユーロ圏の景気を左右してしまう部分がある。

2つの要因による自動車生産の縮小が直撃
10月の世界経済見通しでもIMF(国際通貨基金)は自動車産業の停滞について相応の紙幅を割いて分析を披露しており、2018年は金融危機後で初めて自動車生産が縮小した年として問題意識を示している。この背景は2つある。いずれも広く知られた論点だ。1つは中国の小型車減税が廃止されたこと、もう1つは欧州において厳格な排ガス基準が導入されたことである。

前者については2015年10月から導入されていたもので、本来は2016年に終了予定であったが2017年も減税幅を圧縮した上で継続されていた。2018年はこの反動で中国市場が低迷したという話である。財・サービスへの時限的な減税(≒値下げ)は当然、需要の先食いを生む。2018年から2019年にかけてはその影響が色濃く出ていると考えられる。

後者については、新たな排ガス基準に対応する自動車の生産が立ち遅れていることや規制対応によって生産コストがかさんでいることなどが生産・販売の動きを抑制したと考えられている。中国の減税終了の悪影響に関しては短期的な下押しで収束する見通しだが、環境規制対応に伴う需要減は中期的に残る構造的な要因だとの見方もある。

世界の鉱工業生産の6%弱を占める自動車産業の不調が昨年来の世界経済の減速の背景にあることは重要な事実であり、先行きを展望する上でも見逃せない。そして、国別に見れば、やはり中国そしてドイツが足かせとなったことが明白である。よく知られている両者の政治・経済的な結びつきの強さを踏まえれば、相互連関的に経済環境が悪化したことも推測される。

また、中国との結びつきが強かったこと以上に構造的な問題をドイツは抱えている。それは依然として国内が輸出拠点としてのパワーを持ってしまっていることだ。ドイツの輸出依存度(輸出÷実質GDP)は40%弱と日本の20%弱に比較してかなり高い。世界輸出に占めるドイツの存在感は中国の台頭と共に日本が小さくなっていたことに比べると、しっかりと維持されている。

この背景としてはシュレーダー政権下での労働市場改革(いわゆるハルツ改革)を通じて国内生産コストが押し下げられていたことや州単位での権限を拡大させたことなどによる競争力の高い中小企業(ミッテルスタンド)の存在など、前向きな論点が指摘されることも少なくない。

「永遠の割安通貨」で輸出依存度は高いままに
だが一方、「永遠の割安通貨」である共通通貨ユーロの存在や東欧からの安価な労働供給なども国内に生産拠点を残置させる誘因として大きかったであろうことは想像に難くない。

輸出拠点としてのパワーが残っているということは国内で雇用を創出するパワーも残っているということだ。ゆえに、これが巧く回っている時には「強み」として大いに持てはやされる。しかし、「強い輸出にけん引された経済」というのは、海外の経済・金融環境という所与の条件が変われば今までの「強み」が一気に「弱み」に転じ、景気全体を押し下げる。

2005~06年の円安バブルと呼ばれた時代、日本の製造業は薄型テレビなどの輸出を通じて大きな利益を上げた。そして円安環境を前提としつつ国内の生産能力を増強した。しかし、危機を経て為替が円高に振れると、外需が一気に縮小し、業況が一変した。もちろん、今次減速局面に金融危機ほどの震度を見て取ることはできないが、昨年来の世界経済減速の中で失速を強いられているドイツの姿はリーマンショック後の日本の姿と被るものがある。

なお、昨年来の世界経済減速において日本はドイツほど落ち込んでいない。これは度重なる円高や2011年の東日本大震災などを教訓として生産拠点の海外移管を進め、分散化を行ってきた結果と思われる。国内に生産拠点がなければ、円安時の輸出数量の増加は望めない一方、外需減退に伴う実体経済への影響は抑制される。両国の鉱工業生産を比較するとドイツの落ち込みの深さは日本のそれよりもかなり大きい。

もちろん、産業空洞化と揶揄されることもあり、日本の状況のほうが良いとは一概に言えないのだが、ドイツに比べれば海外経済の環境に四苦八苦することのない体質になったということは言えるかもしれない。

ここに至っても財政緊縮路線を維持する構え
いずれにせよドイツが現在の苦境を乗り切るにあたっては、外需減退の影響を和らげるべく政府部門による拡張財政が求められるところだが、これに踏み切る様子はうかがえない。11月8日、メディアに対するインタビューでショルツ独財務相は「われわれの財政政策は非常に景気刺激的で、公共投資は過去最高水準にある」などと述べており、一度は容認したかに見えた拡張財政路線を再び引っ込めるような雰囲気がある。

しかし、貯蓄・投資(IS)バランスを見ればドイツの政府部門は2%弱の貯蓄過剰(即ち財政黒字)を確保するような状況にある(参考記事、グラフ参照『トランプの貿易戦争、ドイツに非はないのか』)。リセッションの淵に立たされても、こうした資源配分を変えようとしないのは、もはや合理性を超えた国民性にかかわる問題なのだろうか。

ドイツ7~9月期GDP(国内総生産)はかろうじてプラス成長(前期比プラス0.1%)を確保し2四半期連続のマイナス成長(すなわちリセッション)を回避したが、米中の軋轢が続く中、依然として海外環境を中心に不透明な状況は変わっていない。

ドイツの政策当局者はかたくなに緊縮路線を維持し続けるのだろうか。ドイツの経済が域内経済の仕上がりを左右する。今後のECB(欧州中央銀行)の政策運営ひいては金融市場の見通しを策定するうえでも「ドイツ、自動車、財政出動」といったキーフレーズは重要になってきそうである。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です』