米中新冷戦で動きだす北朝鮮の「プランB」

米中新冷戦で動きだす北朝鮮の「プランB」
編集委員 峯岸博
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62088470Q0A730C2000000/

『約3カ月後に迫った米大統領選で苦戦が伝えられるトランプ大統領とどう向き合っていくか。北朝鮮指導部に苦悩の色が濃い。米中の覇権争いが貿易からイデオロギーや軍事まで広がる新冷戦の様相を帯びるなか、「プランB」の準備にアクセルを踏み始めた。

最近、北朝鮮の声明や論調に変化がみえる。

「中国共産党の不敗性と社会主義制度の優越性をますます際だたせるだけだ。危険千万な反中国発言を峻烈(しゅんれつ)に糾弾する」(15日、北朝鮮外務省報道官がポンペオ米国務長官の中国批判声明を受け)

「中国共産党の領導を抜きにして、今の中国について語ることなどできない」(2日、党機関紙「労働新聞」の論評)

■「社会主義の優越性」を強調

注目されるのは、中国共産党と社会主義体制を礼賛する表現がにわかに増えだしたことだ。中国共産党批判を展開する米国に対し「社会主義の優越性」を使って反論する手法は、東西冷戦時代の1950~60年代をほうふつとさせる。

香港の統制を強める中国の香港国家安全維持法やロシアのプーチン大統領主導の憲法改正への支持を真っ先に表明したのも北朝鮮だった。

中ロ指導部による強権への熱烈な支持と共闘姿勢を次々と打ちだす北朝鮮指導部の狙いについて、北朝鮮消息筋は「米中『新冷戦』に便乗している」と解説する。

そこには史上初の米朝首脳会談を軸とする「2018年体制」の行き詰まりと不透明さを増す11月の米大統領選が深く絡んでいる。

北朝鮮にとっての「プランA」は首脳間で信頼関係を築いたトランプ氏の再選だ。しかし、新型コロナウイルス感染が米国でも爆発的に広がり、トランプ氏の関心が北朝鮮から一段と離れてしまったのは誤算だった。

「トランプ2期目」に懸ける計画も立てにくくなっている。米大統領選の情勢調査で優位に立つ民主党のバイデン前副大統領が政権を握れば、北朝鮮の人権抑圧や体制の問題を持ちだし「トランプ氏より手ごわい相手になる」とみるのが北朝鮮側の相場観だ。

■米韓演習後大型の示威行為か

トランプ氏の再選をどう後押しするかをめぐり平壌で議論が重ねられているという。

当面のポイントは8月の米韓合同軍事演習だ。新型コロナの影響で規模を縮小して実施したとしても、軍事力強化と局面打開をもくろむ北朝鮮は演習に反発するかたちで大型の示威行為に踏みきる可能性が大きいとみられている。

2019年末の党中央委員会総会で、金正恩(キム・ジョンウン)委員長は「世界は遠からず新たな戦略兵器を目撃することになる」と予告した。大型潜水艦に搭載した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射か、米グアムなどを射程に入れた中距離弾道ミサイルの発射か。「人工衛星」と称する固体燃料型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射もあり得ると指摘する専門家もいる。

北朝鮮が6月に開城(ケソン)の南北共同連絡事務所を爆破し、南北軍事合意の破棄や軍部隊の展開に言及したのも、その地ならしだったとの見方がある。

米朝首脳会談は3回目となった2019年6月30日を最後に開かれていない(板門店)=AP

金正恩氏はジレンマも抱える。朝鮮半島を再び緊張させてもトランプ氏と起死回生の合意に持ち込める保証はない。米世論が硬化しトランプ氏の北朝鮮政策の失敗にフォーカスが当たれば逆効果になりかねない。

そんな迷いが、年内の米朝首脳会談に悲観的な見通しを示しながらも「両首脳の判断と決心によって、どんなことが起こるかは誰もわからない」とした金正恩氏の妹、金与正(ヨジョン)党第1副部長の談話に映る。

■中ロが裏で支援

米中の新冷戦に自ら組みこまれようとする北朝鮮の動きは「ポスト・トランプ」を見据えた対米戦略の「保険」といえる。

金正恩氏が習近平(シー・ジンピン)国家主席に中国のコロナ対策を称賛する口頭親書を送ると習氏も返信した。米国にいったん傾いた北朝鮮を自陣に取り戻し再びカードにできるとの読みがあるのだろう。「力の及ぶ限り支援したい」の前にわざわざ「北朝鮮の求めに応じて」と付けた。

最近、日米を含む43カ国が国連の北朝鮮制裁委員会に提出した資料によると、北朝鮮は海上で積み荷を移し替える「瀬取り」の手口で、国連安全保障理事会が定める制限を大幅に超える量の石油製品を密輸入している。中国などの支援を得ることで国連制裁を骨抜きにする狙いがある。「北朝鮮の外貨が底を打ちつつあり、中国との密貿易でも北朝鮮産の鉱物などとの物々交換になっている」とも消息筋は明かす。

米朝間で中ロを交えた神経戦が続く。世界で取り残された北東アジアの冷戦構造が「新冷戦」のかたちで再び浮き彫りになれば、朝鮮半島の平和はさらに遠のく。』