〔「宮崎正弘の国際情勢解題」より〕

「宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和2年(2020)7月31日(金曜日)
       通巻第6604号  <前日発行>

『社債の償還時期に重なり、無理矢理の景気刺激を続ける中国だが
  地方政府の債務、どうやら1000兆円を突破してしまったようだ
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 小誌はこれまで中国の地方政府債務を邦貨換算でおよそ840兆円前後と見積もってきた。無駄な投資を展開し、将来に返済が不可能と知りながら、地方政府は社債を起債してきた。これを「隠れ債務」、もっと分かりやすく言えば貸借対照表の「資産」の部が、不良債権だらけの粉飾決算が提示され続けたのである。

国有銀行は「融資平台」という曖昧な金融機関へどかどかと資金を流し、その「地方債」の起債によって、建設プロジェクトを推進し、ひたすらGDP躍進に貢献してきた。
このスキームはすでに多くのエコノミストも追認してきた事実だ。中国各地のゴーストタウン、誰もいないショッピングアーケード、進出企業のない工業団地、車より熊の出没の多い高速道路などに化けてきた。
立ち退かされた農民の悲劇も繰り返されてきた。

全人代で李克強首相が認めた数字は「月収が1000元(15000円)以下の国民が六億人」。まさに「国進民退」という衝撃的な数字がなによりも雄弁に中国経済の裏の実態を物語っているではないか。

2019年の新規地方債起債が4兆4000億元(邦貨換算=66兆円)。2020年上半期だけですでに同起債額は3兆3000億元(同=50兆円弱)。この資金は、無理矢理拡大して強行している土木建設工事に廻され、それは必然的に鉄骨、セメント、建材の生産増に繋がり、コンクリードミキサー、シャベルカー、クレーン、ブルなどがフル稼働し、現場労働者、運転手、資材管理などに雇用を産む。したがって統計上は、GDPの増大に人為的に繋がり、「第二四半期は3・2%成長、中国は『V字回復』だった」という政治宣伝に直結することになる。

 内蒙古省の包商銀行の倒産、国家による救済に端を発した地方銀行の経営危機は錦州銀行などに波及した。
ほかに証券会社では新時代証券、国際証券、保険では天安財産保険など四社、信託では新時代信託、新華信託。そして先物取引の国盛期貨など、明天系の九社は国有化された。これらはいずれもが香港の豪華ホテルにガードマン付きで暮らしていた明天集団のボス、蕭建華がある日突然、中国に拉致されてからの『金融事件』である。
 
 江蘇省常州市、貴州省遵義市、遼寧省営口市などでは、債務不履行すれすれが噂され、償還期日直前に面妖な資金供給がなされて倒産を免れている。中央政府が救済したとしか考えられない。したがって地方債の財務残高は邦貨にして1000兆円を越えていると推定されているのだ。

 IMFが2019年7月に発表した中国の債務はおよそ40兆ドルで、GDPの303%(前年は297%だった)。これは世界全体の15%を占め、さらにGDP成長率が低下している一方で、政府支出を増やし続けているのだがら、現在はもっと悪い数字になっているだろう。

 ▼ならば鳴り物入りだったAIIBはどうなったか?

 IMF世界銀行のSDRに認められた中国人民元が国際取引に決済通貨として機能しているのは1・7%。ドルユーロ、日本円で全体の85%である。ほかにスイスフランなど。
 中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)を大音響の政治宣伝とともに立ち上げ、発展途上国のインフラ整備に資金を供給するとして、資本金1000億ドルを謳った。

西側からは英国が一番乗り参加を表明し、いまでは百二ヶ国がAIIBに加わり、日米両国は参加を見送るという正しい判断をしたが、国内では『バスに乗り遅れるな』と騒ぐパンダハガーがいた。

 開業から五年、金立群総裁の任期が切れるので、年次総会がテレビ会議で開催された。
報告では融資額が200億ドル(ところが実際の融資実行は22億ドル)。発足から二年は「ADBとの協調融資」だったが、2018年から「単独融資」が増えたと金立群総裁は強調したが、たとえばカンボジアの光ファイバー網建設に7000万ドルとか、融資金額が小口である。

 融資実績は「予想の半分だった」としたが、ちょっとまった。「資本金1000億ドル」じゃなかったの?
 AII場(※Bの打ち間違いだろう)の2019年末の純資産額は216億ドル、起債は25億ドル(つまり資本金は四分の一しか集まらなかったようだ)。融資残高は22億ドル、融資承認額が120億ドル(2016-19の実績)。可笑しいというより、これらの「実績」から推して、実態は凄まじく怪しいのである。』