ムヒディン政権、半信半疑の脱・汚職 1MDBで巨額回収

ムヒディン政権、半信半疑の脱・汚職 1MDBで巨額回収
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61915090V20C20A7000000/
『【シンガポール=中野貴司】マレーシアのムヒディン政権が政府系ファンド「1MDB」の汚職に関連し、米ゴールドマン・サックスから巨額の資金を回収することに成功した。汚職がきっかけで下野したナジブ元首相らと組んで政権を取ったムヒディン首相にとって、負の印象を払拭する一歩となった。

「政府は今後も1MDB関連の資産を回収する努力を続け、汚職事件に関わった個人や集団への賠償請求を続ける」。ムヒディン氏はゴールドマンとの電撃和解を発表した24日、汚職への追及姿勢を緩めることはないと強調した。ゴールドマンから39億ドル(約4100億円)の支払いを受ければ、政府が1MDBからの不正流出で失った資金をほぼ回収できる計算になる。

それでも責任追及を強調し続けるのは、マハティール前政権に比べ、汚職や権力乱用を防ぐ取り組みが後退するとの懸念を持たれてきたためだ。

負のイメージは政権の成り立ちに起因する。ムヒディン氏は3月に首相に就任する際、過半数を確保するためナジブ氏らが所属する当時の野党連合と組んだ。1MDBはナジブ氏が首相在任中の事件で、ナジブ氏は今も40を超す1MDB関連の罪で起訴されている。政権基盤の弱いムヒディン氏は実力者のナジブ氏らに配慮した政権運営をせざるを得ず、おのずと汚職への追及も鈍ると、政権発足当初から指摘されてきた。

実際、5月には1MDB事件の中心人物の1人として起訴されていたナジブ氏の義理の息子、リザ・アジズ氏への起訴が取り下げられた。不正に流用した資産の追加没収に応じたことが取り下げの理由とされたが、マハティール前政権からの変化を象徴する一件だった。6月にはナジブ政権時代に地方政治で影響力を誇っていたムサ・アマン前サバ州首相も、1MDB以外の汚職事件で無罪放免となった。

こうした中でのゴールドマンとの和解は、現政権が不正流出した国民の資産の回収に努力しているとアピールする格好の機会となった。ムヒディン政権は24日「マハティール前政権時にゴールドマンが提示していた17億5千万ドルを大幅に上回る金額で合意できた」と、前政権との違いを際立たせようとした。

ただ、今回の和解の素地を作ったのは、間違いなくマハティール前政権だ。2代前のナジブ政権時代に封印されていた1MDB事件の捜査を積極的に進めたのもマハティール氏なら、不正な資金調達を取り仕切ったゴールドマンの責任を国際世論に訴え、包囲網を狭めていったのもマハティール氏だった。

トミー・トーマス前司法長官は2019年10月の日本経済新聞とのインタビューで、当時からゴールドマンと和解交渉を進めていると明かしていた。ムヒディン氏にとって外資からの資金回収は、国内の政治勢力に配慮する必要がない一方、自らの対外交渉力を訴えられる手が付けやすい案件だった。ゴールドマンが早期決着を望んでいたことも、渡りに船だった。

ムヒディン氏の真価が問われるのは、今後も続けると明言した「汚職事件に関わった個人や集団への賠償請求」だ。ナジブ氏と親密で、1MDB事件の主犯格の実業家、ジョー・ロー氏は今なお海外逃亡を続け、マレーシア当局は逮捕できていない。ロー氏はこれまで明らかになっていない多くの事実を知っているとみられ、その逮捕・起訴はナジブ氏や有力政治家の追起訴につながる可能性がある。

仮にそこまで踏み込むことができれば、ムヒディン氏の「脱・汚職」の姿勢は本物だといえる。だが、それは即座に政権内の対立を生み、ナジブ氏らの勢力が政権を離脱する要因となる。議会の過半数を辛うじて確保するムヒディン氏にとって、ナジブ氏との摩擦を許容できるほどの権力基盤はない。

一方で、現政権に近い要人らに対する起訴取り下げが今後も続けば、今回の成果に対する評価もはげ落ちる。新型コロナウイルスの感染拡大防止の対応で高まっていた支持率が低下する要因になり得る。

1MDBの汚職事件に関するナジブ氏への最初の高裁判決は28日に言い渡される。マハティール氏からムヒディン氏への首相交代後、検察トップなどの人事も刷新されており、どのような司法判断が下されるか予断を許さない。マレーシアの独立以来、最大のスキャンダルといわれる1MDB事件の捜査、公判の行方を国内外の関係者がなお注視している。』

ゴールドマン、4100億円支払い 1MDB事件で和解
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61910410U0A720C2EA4000/?n_cid=DSREA001

『【シンガポール=中野貴司、ニューヨーク=宮本岳則】マレーシア政府は24日、政府系ファンド「1MDB」の汚職事件に関連し、米金融大手ゴールドマン・サックスから39億ドル(約4100億円)の支払いを受けることで同社と合意したと発表した。

マレーシア検察は1MDBの債券発行の際に当局に提出した書類が投資家を欺く内容だったとして、ゴールドマンの子会社などを起訴していた。今回の和解で検察は起訴を取り下げる見通しで、ゴールドマンとの争いは決着する。

マレーシア政府の発表によると、ゴールドマンは25億ドルの現金のほか、資産回収を通じて14億ドルを支払う。ゴールドマン以外から回収した分も含め、マレーシア政府が1MDB関連で回収した資産は45億ドル超に達する。1MDB事件では45億ドル超の資産が不正に流出したとされており、政府は大半の資産の回収にメドをつけたことになる。

ゴールドマンは2012年から13年にかけて、1MDBが発行した合計65億ドルの債券を引き受け、約6億ドルの手数料収入を得ていた。マレーシア政府は調達した資金が不正に使われた点を重くみて、手数料収入以上の金額をゴールドマンから回収することを目指し、水面下で交渉を続けてきた。

政府は24日の声明で「マハティール前政権時にゴールドマンが提示していた17億5千万ドルを大幅に上回る金額で合意できた」と成果を強調した。ムヒディン首相も「政府は今後も1MDB関連の資産回収を続ける」と述べた。

ゴールドマンは早期決着をはかるため、巨額の支払いによる和解に応じたとみられる。

マレーシア政府との和解でゴールドマンは懸案の解決に一歩前進した。同日公表した声明で「今回の問題で重要な教訓を学んだ。経験を糧に改善していく」と述べた。マレーシア政府に支払う金額については引当金を積んでおり、今後の決算への影響は軽微としている。

今後の焦点は米司法省との和解協議だ。18年11月、司法省は資金流出に関与したゴールドマン元幹部らを起訴した。起訴された元バンカーのうち、ティム・ライスナー氏は有罪を認め、金融界から追放された。ゴールドマンは法人として有罪を認めるかどうかで司法省と交渉を続けている。』