「中国標準」国家が総力 技術支配、国際機関で主導権

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61905270U0A720C2MM8000/

『産業界の国際ルールづくりで中国が存在感を強めている。国家レベルで「中国標準2035」と名付けた中期の戦略を策定中で、一部の国際機関では2019年の中国の提案数が米国などを上回りトップに立った。世界標準のとりまとめで主導権を握り、技術面での支配力を強めて競争優位に立つ狙いだ。米国はハイテク分野での中国封じ込めを狙うが、限界もにじむ。

通信などの国際規格を定める国際機関の国際電気通信連合(ITU)。業界団体の調べによると有線通信の規格にまつわる技術文書の19年の提出件数は、中国が830と全体の33%にのぼりトップを占めた。2位から4位までの韓国、米国、日本の合計提出件数よりも多い。技術文書は規格立案時のたたき台となるため、提出数の多さは発言力の強さにつながる。』
『中国はITUの予算となる分担金の拠出でも日米独仏に次ぐ5位だ。ITUのトップは中国人の趙厚麟氏で、中国の広域経済圏構想「一帯一路」との連携強化を公言する。

■通信以外でも存在感

存在感を高めようとする動きは通信以外でも目立つ。日本産業標準調査会のまとめでは、国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)における14年以降の委員会設置提案数は、中国が16件と全体(65件)の約4分の1を占めて首位だった。委員会は電子技術など各分野ごとの規格をつくる場で、通常は提案国が幹事ポストを得る。20年1月には中国人の舒印彪氏がIEC会長に就任した。

狙いは技術のルールづくりを主導して産業競争力を高めることにある。テクノロジー大国を目指す中国は15年にまとめた「中国製造2025」で5Gや人工知能(AI)の産業育成を進めた。近年は競争の「土俵」をも自ら整備すべく、同国の技術を国際標準に反映する「中国標準2035」を策定中とされる。

中国が技術の標準化で主導権を握ることを警戒する米政府は同国のハイテク企業をビジネスから極力排除するデカップリング(切り離し)策を進めてきた。19年には、安全保障上の問題があるとして米企業が華為技術(ファーウェイ)と取引することを事実上禁じた。英国やフランスもファーウェイに厳しい姿勢をとりはじめたが、それでも5Gでは中国の影響力をぬぐいきれない。

■排除しても特許料

サイバー創研(東京・品川)によると、ファーウェイは5G規格に不可欠の特許(標準必須特許)の申請数で世界トップだ。携帯通信を扱う民間の標準化団体「3GPP」での5G関連の提案件数も、欧州勢や米クアルコムを抑え首位に立つ。4G技術でも先行したファーウェイは2月に特許侵害で米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズを訴えた。知的財産に詳しい弁護士は「5Gの通信網からファーウェイを排除しても、企業は『標準』の一部となった同社の特許に使用料を支払わねばならない場合が出てくる」と指摘する。

標準を押さえれば、経済制裁を揺さぶることもできる。米商務省は6月15日、通信分野の国際標準づくりで、米企業がファーウェイと技術情報をやりとりすることを容認する異例の措置を公表した。ファーウェイとの取引禁止が続けば、米国企業が標準化の流れから取り残される恐れがあったからだ。

5Gでの中国先行は幅広い範囲に影響を及ぼす。標準化で主導権を握られれば5Gを使うスマートフォン向けの半導体やソフトウエアの開発でも中国勢が優位に立ちやすくなる。中国は機器の組み立てを通じてハイテク分野での競争力を強めてきたが、これが中核分野にも広がりかねない。ハイテク分野での中国封じ込めを狙う米国の戦略実現は一段と難しくなる。

日本の政治も警戒心を募らせる。自民党で産業政策づくりに強い影響力を持つ甘利明税制調査会長は「中国はまず自国標準を国際標準とし、その後に合致する中国システム一式を輸出する」と話す。注視しているのが中国がISOなどに提案しているスマートシティーの国際標準づくりだ。住宅から車まで関わる産業が多く、日本企業のビジネスにも影響が出かねない。顔認証などを通じて個人データが中国に流れる恐れも出てくる。

技術を通じて安全保障を脅かすような事態になれば、中国への各国の姿勢はこれまで以上に厳しくなる。静かに広がる「中国標準」は新たな摩擦と裏腹だ。

(龍元秀明、秋山裕之)』