[FT]米、対中は「議論なき総意」

[FT]米、対中は「議論なき総意」
磨かれぬ政策に危機感
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61761870R20C20A7TCR000/

『猛烈な党派対立にも使いどころはある。国が分断されていても、いかなる政府案も検証・反対なしに採用されることはありえないのだ、と言い訳することもできる。検証は、真実を徹底的に追求するためではなく対立による悪意が狙いだと、より厳しくなることもある。米国はマスクを日常的に着用するかどうかが政治問題になるほど分断している。しかし分断の反対である「議論なき総意」という同等に危険な状況は避けている。』
『ただし、最も重大な世紀の政策については例外だ。米ワシントンにいると、不気味なほど議論がないまま、米国が中国との終わりのない紛争に陥っている様相を感じる。

■「中国、いつかは民主化」過去の夢

空の色や2足す2の答えについてさえ必ず論争するであろう政治家たちが、米中の2超大国が決戦を控えているという見方については一枚岩だ。民主党の大統領候補指名を固めたバイデン前副大統領は、攻撃的な選挙広告の映像で、トランプ大統領の対中政策が「やわ」であることしか指摘していない。

バイデン氏は民主党内で珍しい主戦論者だというわけでもない。民主党上院トップのシューマー院内総務はトランプ氏に、「中国に勝つ唯一の方法は強さ」だから、関税については「断固譲歩するな」と迫った。歴史を振り返ってどの出来事が参考になるのか、あるいは、どの国が相手なら弱さをみせてもいいのかなど、シューマー氏のこうした陳腐な発言の真意は問われていない。

それも当然だ。それには議論が必要になるからだ。ワシントンの政界においても実業界においても、そのような議論は、少なくとも公の発言としては聞かれることはほとんどない。学者はもっと率直に不安を口にしているが、その数は多くなく、発言の影響力も小さい。

その結果が米国らしからぬ議論なき総意だ。これは未来のみならず、次第に過去にも及ぶようになっている。すべての人が、トランプ大統領誕生前のワシントンでは世の中が絶えず進歩する青臭い考えが支配的だったと認識するようになったのだ。かつては、中国が物質的な豊かさを追求し続ければ、いつしか民主主義の国、かつ米国の友人となり、巨大な日本か韓国のようになると信じ込んでいた。この視点だと、米国は中国の世界貿易機関(WTO)加盟承認を推奨したことで、図らずも自らの手でライバルを作り出したことになる。

■冷戦時代にあった反対意見、現在はなし

歴代大統領は過去の対中政策を批判されがちだが、中国を常に支援してきたわけではない。ブッシュ元大統領(子)が中国政府の意に反して台湾に武器を売却したり、オバマ前大統領も中国製タイヤに関税をかけたりする事例もあった。米国が中国に対して採れる選択肢は純朴なリベラル路線か、あるいは2度目の冷戦のいずれしかない、ということもなかろう。

ここで認識しておきたいのが米国の対中政策の前提条件だ。中国は地球上最も人口が多く、現存する世界最古の文明を持つ国だ。にもかかわらず、米国は中国の盛衰は米国の政策次第で変わると考えているのだ。これは米国が共産主義に中国を「奪われた」と言われた1940年代と変わっていない。中国には中国自身の都合があり、78年以降の改革開放路線で超大国に返り咲くことは運命づけられていた、という意見はワシントンでは風変わりにみられる。

筆者自身は、デタント(緊張緩和)を求めているわけではない。もしかしたら、米中の争いは正当化できるだけでなく、宿命なのかもしれない。新しい勢力が既存のトップの地位を脅かすときに生じる、自然かつ避けられない混乱を意味する「トゥキディデスのわな」はもう皆がよく知るところだ。急激に台頭する国と既存の大国、一党支配国家と民主主義国――。紛争の材料はすべてそろっている。

しかし、こうした事情を理解しながら、それでもなお、中国に関する公の議論と著名な反対論者がいないことには不安を覚えてもおかしくないはずだ。

冷戦の夜明けの頃でさえ、米国の北大西洋条約機構(NATO)加盟に反対するロバート・タフト上院議員がいた。また、図らずも20世紀の重要人物になった外交官ジョージ・ケナンはソ連の「封じ込め」は自分の助言を好戦的に読み違えた政策だと考えていた。いずれも今よりはるかに礼節に富んだ時代だったが、こうした少数派の意見書が出てきた。

現在、こうした声が上がってこないことを憂慮する。異説により政策が議論によって磨かれたり、もまれたりすることがないことを意味するからだ。例えば、米国の中国に対する不満は中国の貿易慣行が改善すれば解消されるのか、それとも中国国内における国民の扱いにまで踏み込むのかは、明確ではない。

ペンス副大統領とポンペオ国務長官はトランプ氏より頻繁に後者の問題を取り上げる。民主党は共和党以上にこの問題に言及する。この「ミッション・クリープ(徐々に課題が追加され、本来の目的が見失われていく状況)」がもし進行しているのだとすれば、かなり重大な意味を持つ。経済的な対立の解消は面倒だが、統治哲学が対立する場合は、折り合いをつけるのはさらに難しいからだ。

■ちらつく「赤狩り」の過去

議論がないことによる総意がもたらすもう一つの影響は、反対意見が政治的なタブーになりつつあることだ。ここには、しっかり向き合わなければならない暗い過去がある。米国で50年代に共産主義者を排除した「赤狩り」が一挙に広まったのはロシアとはほとんど関係がなかったことは忘れ去られている。突破口を開いたのは、例の「中国の喪失」だった。米国の外交官は、自国の議員に突き上げられた。今で言う「キャンセル・カルチャー(異論を徹底排除する社会風潮)」を最初に熟達したのは右派だったのだ。トルーマン大統領が51年、中国を攻撃したがっていたマッカーサー将軍を解任した時、すべての人が、文民統制を支持したわけではなかった。

今のワシントンは、こうした熱烈だった時代とは遠くかけ離れている。選挙の年であるということを鑑みても、「軟弱」だととられかねないことを言わない消極性は、嫌でも目につく。米国の究極の強みは、公の話題について侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が重ねられることだ。中国の問題については、不安を感じさせるほどおとなしい。

By Janan Ganesh

(2020年7月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)』