米国が領土問題に関与へ、いずれ日本は踏み絵迫られる

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/072000187/?P=1

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 著作権法的には、相当に「アレ」だ…。しかし、事が「日本の安全保障」「日本の国家戦略」に関わることなので、勘弁してもらいたい…。
 
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『米国のマイク・ポンペオ国務長官が7月13日に声明を出し、南シナ海の海洋権益に対する中国の主張は「完全に違法」との姿勢を明らかにしました。2016年7月にオランダ・ハーグの仲裁裁判所が出した判決に米国の立場を一致させる、との意向です。これをどう評価しますか。

小原:私は、13日の声明よりも、ポンペオ長官が15日に記者会見でした発言の方を重視します。「中国に領土を侵害されていると考えるすべての国を支援する」と表明しました。13日の声明の趣旨は「国際法に従う」ということで、米政府の従来の姿勢からはみ出すものではありません。しかし、15日の発言は、「領土問題には関与しない」というこれまでの姿勢を転換するものだからです。』
『危機のラダーを上る流れの一環
この発言は、米国が「世界の警察官」の役割を再び演じる意向を示したものでしょうか。

小原:ドナルド・トランプ米大統領のこれまでの行動から推し量るに、それはないでしょう。あくまでも中国を封じ込める観点から歩みを一歩進めたものだと理解します。

 ただし、これが意味するところは非常に重いものです。領土問題というのは、価値観やイデオロギーと同様に、落としどころをみつけて妥協することのできない分野。米国はそこにコミットしたことになるからです。加えて、「支援する」対象は日本のような同盟国に限りません。ベトナムなど中国と紛争を抱えるASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国も対象として想定しているとみられます。

ポンペオ長官はなぜこの時期にそれほど踏み込んだ発言をしたのでしょうか。

小原:米国と中国は相互に不信感を抱き、対立のラダー(はしご)を徐々に上ってきました。今回もその一環と位置付けられます。直近では、新型コロナウイルスの感染拡大に米国で腐心する中、「中国がその隙を突いた」と見える動きを示しました。米国はこれに危機感を抱き、対抗措置を講じたのだと思います。

米空母セオドア・ルーズベルトで3月に集団感染が発生し任務を外れるなど、米国の前方展開能力が不安視される事態に陥りました。その時期に、中国は南シナ海で強硬な姿勢を示しています。4月2日には、中国海警局の公船がベトナム漁船に体当たりし沈没させました。

小原:そうですね。中国国営の新華社や共産党機関紙は「米軍は部隊展開能力に大きな打撃を受けた」と盛んに報じていました。

 ただし、中国は中国で米国に対し、新型コロナ危機が起こる前から危機感を高めていました。例えば、「中国近代海軍の父」と呼ばれる劉華清将軍が、中国共産党が結党100年を迎える2020年までに第2列島線*までの制海権を得るとの目標を立てました。これは達成することが必須の目標です。よって中国海軍はこれを実現すべく増強を進めてきましたが、いまだ実現には至っていません。西太平洋における米海軍のプレゼンスが強大であることが理由の1つです。

*:第2列島線は、伊豆諸島からグアムを経てパプアニューギニアに至るラインを指す。第1列島線は東シナ海から台湾を経て南シナ海にかかるライン。中国は第2列島線の内側を「聖域」と位置付ける』
『米中両国が対立のラダーを上ってきた根本原因は、両国の認識の違いです。米国は現状を安定させることが正しいとの立場に立ちます。一方、中国にとっては、中国の偉大な復興を実現することが重要。かつて誇っていた威勢を取り戻すべく勢力を拡大させること、南シナ海におけるコントロールをより強力にすることが正しいことなのです。これを実現する手段が国際法にのっとっているかどうかは問題ではありません。「Rule of Law」ではなく「Rule by Law」です。

南シナ海における軍事プレゼンスを一層強め実を示す
「中国に領土を侵害されていると考えるすべての国を支援する」ため、米国は具体的にはどんな行動を取るでしょう。

小原:特に南シナ海において軍事的なプレゼンスを一層強め、中国に対するプレッシャーを高めていくと考えます。

 既に、そうした動きを強めています。米海軍が7月17日、ニミッツとロナルド・レーガンを南シナ海に派遣し、防空演習を実施しましたことを明らかにしました。これは7月4日に続き、2度目のものです。こうした行動は米軍の圧倒的なパワーを示すことになります。

 また14日には、ミサイル駆逐艦を南シナ海に派遣し、「航行の自由作戦」*も展開しています。今後も高い頻度で、また必要に応じて、演習や航行の自由作戦を展開することになるでしょう。

*:ある国が公海における航行の自由を侵そうとする場合、その海域に軍艦や軍用機を派遣し、公海であることを示す作戦
 加えて、インド太平洋軍が軍事力の展開についての新しい構想を示しました。今年発表した報告書「Regain the Advantage」の中で、敵から攻撃を受けたときに生じる被害と、こちらの攻撃の有効性とのバランスを改めて取るという方針を明らかにしています。中国の攻撃から身を守るため安全なところまで退く一方、機動性を高めて、相手が予期せぬタイミングで予期せぬ場所を攻められるようにする。

 戦略爆撃機「B-52」の部隊をグアムから本国に移転したことをもって米軍のプレゼンスが下がったという見方がありましたが、それは事実と異なる見方だと思います。B-52は今も東アジアの空域を飛んでいます。

 ただし、中国と戦争する意図は米国にありません。あくまで「姿勢」を示すことが目的です。トランプ大統領の興味は経済にしかありません。

米軍が電子戦を担う特殊部隊を南シナ海に派遣することが報じられました。

小原:それもプレゼンス拡大策の一環でしょう。ただし、中国軍に対してジャミング(電波妨害)を行うなどの直接行動にすぐに出るものではないと思います。まずは、周辺の電波情報の収集・分析から始める。電波を追うことで、どこにどういう部隊が居て、何をしているか、をかなり把握することができます。

想定される中距離核の軍拡競争
軍事プレゼンスを拡大する一環として、中距離核戦力(INF)の配備も考えられますか。INF廃棄条約が2019年8月に失効しました。これを踏まえて、米軍がアジアのどこかに中距離核戦力を配備する話が浮上しています。米国は中国が配備する中距離ミサイルに大きな懸念を抱いています。よって、これに対抗する。

 米太平洋軍のハリー・ハリス司令官(当時)が2017年に議会でした発言によると、中国人民解放軍は2000発超の弾道ミサイルと巡航ミサイルを保有しており、このうち90%がINF廃棄条約加盟国であれば違反に相当します。

小原:地上配備型中距離ミサイルの配備は、中国の直近の動きとは関係なく、その前から既定路線として進んでいます。INF廃棄条約が失効した際に、マーク・エスパー国防長官が「条約で禁じられてきた地上発射型中距離ミサイルをアジア太平洋地域に早期に配備したい」との意向を示しました。実際、開発に着手しています。

 米国は、中国と核戦争がしたいわけではありません。いったん軍拡をし、中距離核戦力の分野の実力を中国と同レベルにまで高める。これを材料に中国を交渉の座に着かせ、新たな中距離核戦力(INF)廃棄条約を結ぼうと考えているのだと思います。

 このため、地上配備型中距離ミサイルの配備合戦が起こり得ると考えています。』
『かつて冷戦時代に、ソ連(当時)を相手にNATO(北大西洋条約機構)が採用したのと同じ手法を取ろうとしているのですね。ソ連は西欧を射程に収める中距離核ミサイル「SS20」を配備しており、有利な状態にありました。西欧と米国はこれに対抗して、弾道ミサイル「パーシングII」とGLCM(地上発射巡航ミサイル)を配備して均衡を実現。これを抑止力として、中距離核戦力を廃棄に導く交渉を始めました。

小原:おっしゃるとおりです。

 中国は今、米国の対応を踏まえて、核戦略の見直しを進めていると言われています。戦略核兵器の分野では米国に大きく後れを取っている。このため中距離核戦力を充実させ、これを中心とする非対称戦を想定してきました。

 中国が配備する核弾頭は約290発、ICBM(大陸間弾道ミサイル)発射装置は98基と報告されています。これに対して米国の核弾頭保有数は6000発以上、ICBM発射装置は約400基とみられます。よって、中国は戦略核による対米抑止が働かないのではないかと恐れています。このため米軍が攻めてきた場合には、中距離ミサイルでこれを近づけないようにするというのが従来の戦略です。「DF-26」というミサイルは核弾頭を搭載可能で、米グアムを射程に収めます。

「A2AD」*と呼ばれる戦略ですね。DF-26は「グアム・キラー」の異名があります。

*:Anti-Access, Area Denial(接近阻止・領域拒否)の略。第2列島線内の海域に空母を中心とする米軍をアクセスさせないようにする戦略。これを実現すべく、弾道ミサイルや巡航ミサイル、潜水艦、爆撃機の能力を向上させている
小原:中国はこの中距離ミサイルにおいては米国に対する優位を保ってきたわけですが、今後、この優位性が維持できなくなる可能性が出てきた。そこで、戦略の見直しを進めることになったわけです。

中国を震撼させた「ZTEショック」
米国が領土問題のレベルにラダーを上ったのに対抗して、中国はどんな手を打つ可能性がありますか。

小原:中国は軍事行動を活発化して実効支配を印象付けようとするでしょうが、国内で社会不安を起こさないことを優先する状況だと思います。新型コロナウイルスの感染拡大は中国経済にも著しい打撃を与えました。中国国内にも、「武漢での感染を隠蔽したのが感染拡大の原因だ」との批判があります。中国共産党もしくは習近平(シー・ジンピン)国家主席個人の権威が揺らいでいるとの危機意識が高まっていると見られます。なので、これが大規模な政府批判に拡大しないよう抑えるのが優先課題です。

 先ほど触れたように、2021年は中国共産党の結党100年です。「中国がいかに強くなったか」「中国共産党がいかに正しかったか」を示す必要がある、との事情もあります。中国外務省が「戦狼外交」と呼ばれる強気な外交姿勢を示しているのはこの一環です。米国を強い口調で非難する外交部の趙立堅副報道局長は中国でスター的な存在になっています。

 政府の外交部は、通常は、党の対外連絡部など、外事系のコントロール下にあります。しかし、現在は党中央宣伝部が影響力を行使しているとの分析が出ています。それが正しいとすれば、国内向けの宣伝のために外交が使われていることになる。「中国が米国の厳しい圧力に押されている」と中国の国民に知られることが怖いのですね。そうした事態はなんとしても避けようとするでしょう。

 実は、米国が2018年4月、ZTEとの取引を禁止する指令を米企業に対して出したとき、中国に大きな衝撃が走りました。中国では当時、「そんな傲慢な米国との取引などやめてしまえ」という強気の声が大きかった。しかし、実際に措置が発動されると、ZTEは倒産の危機に瀕しました。これに、中国の指導部や国民は大きなショックを受けたのです。「中国は強くなったと言うけれど、米国との取引をとめられたらひとたまりものない」と。

 南シナ海を舞台に米国が圧力をかけている今の状況を、なるべく国民に知らせない。代わりに、同海域で活発化させている軍事演習をことさら伝える。そうすることで「ZTEショック」の再来を防ぐことに注力するのだと思います。

中国が南シナ海に防空識別圏を設定するとの観測が高まっています。これは対抗措置になりませんか。

小原:国民に「南シナ海におけるコントロールを強めた」と示すことができるので、ある程度の効果はあると思いますが、米国に対する対抗措置とはならないでしょう。

 中国が2013年11月に東シナ海に設定した防空識別圏は、中国の解釈にのっとった“防空識別圏”で、あたかも領空であるかのような扱いでした。

同空域を飛行する外国機に対し、中国国防部の指令に従う義務を一方的に課す。識別に協力しなかったり、国防部の指令に従わなかったりした場合には、「防御のための緊急措置」を取ると定めていました。撃墜することもある、という意味ですね。

小原:本来の防空識別圏はそういう運用はできません。中国は当時、防空識別圏を正しく理解していなかったのです。このため国際社会から失笑を買いました。今は正しく理解しており、東シナ海の防空識別圏は、日本や米国が設定する防空識別圏と同じ運用になっています。仮に南シナ海に防空識別圏を設定しても2013年のようなものにはならないと考えます。』
『懸念される台湾有事、日本も巻き込まれる
米中が対立のラダーを上っていく中で、今後懸念されるのはどのような事態ですか。

小原:やはり台湾有事だと思います。

 米中ともに戦争はしたくないと考えています。中国も現時点において、台湾に武力侵攻するつもりはないでしょう。しかし、台湾をめぐって不測の事態が起こる可能性は否定できません。

 米国がトランプ政権に代わり、台湾への支援を強めています。それを受けて台湾が気を強くし、独立の機運を高めるのを中国は懸念しています。そうならないように圧力を強めているわけです。

 一方で米国は、これまでお話ししてきたように、南シナ海における軍事プレゼンスを高める方向に動く。米軍が南シナ海にさらなる軍事力を投入する際の通り道はどこでしょう。それは、台湾とフィリピンを隔てるバシー海峡です。米海軍の艦船などはバシー海峡を抜けて南シナ海に至る。

 台湾の独立機運の高まりを懸念する中国の目に、この米軍の動きはどう映るでしょうか。台湾に対する軍事協力もしているのでは、と警戒することでしょう。中国は今、空母「遼寧」を台湾周辺に展開して演習を実施するなど、プレゼンスを維持していますが、これがひっくり返される事態も想定しなければならない。

 中国は実際この6月、8回にわたり、戦闘機を中心とする軍用機を派遣して台湾南西の防空識別圏の中を飛行させています。米軍機に対応するためだと考えられます。台湾をはさんで米中両軍が近い位置に展開すれば当然、不測の事態が起こる可能性が高まることになります。

 台湾有事は日本にとっても他人事ではありません。日本の領土も直接巻き込まれることになります。台湾と沖縄県の与那国島とはわずか110kmしか離れていません。さらに、中国は台湾周辺で海上封鎖、航空封鎖をします。計画では、大隅海峡までがその範囲に含まれる可能性がある。そのとき、日本はどうするのか。今から考えておく必要あります。

米国を取るか、中国を取るか、踏み絵を迫られる日本
これまでにお話しいただいた一連の米中の動きが日本にどのような影響を及ぼしますか。

小原:日本は、米国からも中国からも「どちらに付くのか」との踏み絵を迫られるでしょう。

 米国は今、同盟国に対し、米国の側に付くようプレッシャーをかけています。英国は今月、5G通信網から華為技術(ファーウェイ)製品を完全に排除する決定を下しました。

 オーストリアも米国との共同歩調を強め、犯罪者の引き渡しを定めた香港との条約を一時停止しています。南シナ海で活動するマレーシアの掘削船ウエスト・カペラに中国調査船「海洋地質8号」が接近して緊張が高まったときには、米軍の強襲揚陸艦「アメリカ」、巡洋艦「バンカーヒル」とともに、オーストラリアのフリゲート艦「HMASパラマッタ」が加わりました。

 日本にも同じような要請が来るなど、圧力が高まることでしょう。先ほど言及した中距離ミサイルを陸上配備する場所の提供、米軍駐留経費の増額、5G通信網からのファーウェイ製品の完全排除なども求められると考えます。

 中国も米国と同様です。中国は今、日本の動向を非常に気にかけています。例えばこの6月、沖縄県石垣市が尖閣諸島にある「字登野城」の字名を「字登野城尖閣」に変更したことなどをよくウオッチしています。これを見て、日本は尖閣諸島で何か次の動きを画策しているのではないかと懸念している。

 さらに、「米国とともに中国と対決する決意を固めたのでは」と考えている向きもあります。中国側から、「米中が南シナ海で衝突したら、日本はどうするのか。南シナ海で軍事行動ができるのか」と私に問い合わせてきたりしています。

 中国はこうした懸念を持ち、尖閣諸島での執拗な行動によって日本をけん制していると考えられます。中国海警局の船が5月、尖閣諸島の領海内で操業する日本漁船に接近し、追尾したのは記憶に新しいところです。』