外食のあり方、一気に変わる…。

外食のあり方、一気に変わる
アフターコロナを考える ロイヤルHD会長 菊地唯夫氏
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61197340W0A700C2M13000/

『新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出制限や、店舗の休業要請はなくなった。それでも個人消費の回復には時間がかかりそうだ。日本経済新聞社が開催したウェブセミナー「アフターコロナを考える」に登壇したロイヤルホールディングス(HD)の菊地唯夫会長は、従来の外食産業の常識にとらわれない経営が必要になるとの認識を示した。』
『――新型コロナへの対策が必要と感じたのはいつごろですか。

「機内食事業やホテル事業などに、早く影響が出た。すぐ対応しなければいけないなと思ったのは2月下旬くらいだ。まずは資金繰りから着手した」

「今回のように広範囲に広がった災害に対するマニュアルというのはない。見通しを立てるのは難しかったが、危機になったときは優先順位をどうするかが大事なポイントだ」

――かつて経営破綻した日本債券信用銀行(日債銀)に在籍していました。その教訓はありましたか。

「1998年に破綻したときの頭取の秘書で、大きな経験だった。日債銀など長期信用銀行はもともと高度成長期に長期の資金を供給するためにつくられた特殊銀行で、破綻時には一定の役割を終えていたのだと思う」

「経営危機の時に問われるのは企業の存在意義だ。アフターコロナにおいて飲食店の存在意義とは何か、と考えることが何より重要だろう」

――店舗の閉鎖などリストラ策は早かったですね。

「3カ月我慢すれば元に戻るのだったら、そんなことまでやる必要はないと思う。しかしコロナが収束したとしても、社会が変化していく可能性があるので、打つ手は早ければ早いほど有効だ。それから従業員の不安を解消するため、オンラインでの対話を続けた」

――次は消費への影響についてです。視聴者アンケートを見ると、「仮にコロナが収束しても個人消費は元に戻らない」が45%を占めます。

「私の感覚とほぼ同じくらいかな。悩ましいのはここ数年、消費を支えてきたインバウンドがしばらく戻らないこと。それから企業が多くの借金を抱えて大きなロスを出している。負の遺産というものの処理には一定の時間がかかる」

「それから雇用や所得への不安から家計も縮む。この結果、消費をかなり抑制してしまうのではないかと感じる。デフレが再び強まる可能性も高い。固定費と価格のコントロールが難しくなるだろう。例えば外食はソーシャルディスタンスを守らなければいけない。席も減らすので、戻ったとしても10にはならない」

――改めて約5兆円の消費額があるインバウンドの回復が焦点になります。視聴者アンケートも厳しい結果が出ています。

「コロナが収束したとしても2年先になるとみている。やはりワクチンが広く行き渡らないと、人の往来は戻らない。当社の天丼店の『てんや』、空港のレストラン、機内食、ホテルとすべて影響しているので、経営のアクションが問われる」

「ホテルは東日本大震災やリーマン・ショックのときも、稼働率70%を下回っていなかった。実はインバウンドに依存していなかったからだ。さすがにこれだけ人が動かなくなってしまうと、今回は稼働率が激減してしまって、今も休業ホテルがある」

――経営危機についてのリスク対策は甘かったと思いますか。

「自分たちはリスク分散できているという認識を持っていたということが、まず間違いだった。やはり常になにが起こるか分からない。もう少し違う事業の可能性を考えておくべきだった」

――テレワークが進み、生活の分散化が進みそうです。しかし外食産業は都心部などに経営資源を集中していました。この流れは変わりますか。

「まさにその通りだと思う。売り上げが落ちてくると、高いコスト構造が最大の課題になる。外食はテークアウトやデリバリーにシフトすると、視認性の高いお店をつくる必要はなくなる。スマホの位置情報だけで認知されるわけだから。そうなると一等地の概念が大きく変わってくるのではないか」

「これが今回、大きな課題になっているので、投資も変わってくる。(持ち帰りや宅配に特化した)ゴーストレストランであるとか出張シェフであるとか。外食産業のあり方自体もどんどん多様化していく」

――視聴者に外食の回数についても聞きました。6割が「減らす」という厳しい結果が出ていますね。

「我々も、これから内食が増えるだろうということで、昨年12月からロイヤルデリというものを始めている。セントラルキッチンでつくっているいろいろな料理を、家庭向けに冷凍ミールとして届けている」

――視聴者から、「ウィズコロナ時代に求められるマネジメントスキルとは何か」との質問が届いています。

「過去の成功体験の延長線上にないことだけは間違いない。そうすると、これから大事なのは、ネットワーク力だと思う。新しいビジネスモデルを考えていくためには外の力を借りていかなければいけない。例えばデリバリーのためのウーバーイーツとか出前館とか。先ほどのロイヤルデリなどは、家電メーカーと組んでいる」

「だから、副業解禁だとか週休3日制というのはよく働き方改革で議論されるけど、むしろ外からいかに情報を吸収し、自分たちのビジネスを変革していくかという意味合いでの重要性が高まると思う。今までやっていなかったことにチャレンジすることによって、新たな気づきが得られる」

――最後に企業経営の課題について。アンケートでも80%近くが「成長戦略の抜本的な見直しが必要である」と回答しています。

「中長期的にはインバウンドは成長戦略に入ってくると思う。ただ数年は難しいので、フードビジネスを進化させる必要がある。例えば、スマホの位置情報等によってどこにどういう人がいるか、お客さまを探すことができる。一気にフードビジネスのあり方が変わる可能性がある」

――どこもデジタル化を進めます。ロイヤルHDの強みを改めて明確にする必要があります。

「企業の本当の意味での価値というものが問われてくると思うのです。例えば、オンライン授業がどんどん進化していくと、『じゃあ、学校のキャンパスってどういう意味があるんですか』と」

「同じことが、たぶん、飲食店にも問われてくる。やはりリアルだったり、その場でしか絶対食べられない食事であったり。ここが飲食店の本源的な価値になってくるだろう」

(聞き手は 編集委員 中村直文)』