コロナ禍でも売り切れ…。

コロナ禍でも売り切れ マルマン支えた文具のこだわり
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO60691950T20C20A6000000?channel=DF220420206042

『「こんな数字は見たこともない」。4月の売上高を確認した井口社長は愕然(がくぜん)とした。小学校や中学校、高校、大学などが入学シーズンを迎える最も需要が伸びる時期だが、多くの取扱店舗は休業に追い込まれ、売り上げが大幅に落ち込んだ。

しかし5月に入ると、意外なグッドニュースも飛び込んできた。インターネット販売などを介して「連休中に絵を描きたいとスケッチブックを求める人が増えた」という。そして日本を代表する画材店「世界堂新宿本店」が店舗を再開すると、主力商品の「図案スケッチブック」が一気に売り切れになった。「お客さんは待ってくれていた」と井口社長は安堵する。2カ月遅れで売り上げは戻ってきた。』
『現在は宮崎県と神奈川県の2カ所の工場が主力生産拠点だ。中国や東南アジアなど人件費の安い地域での生産も考え、視察に出かけたが、「日本人は手先が器用で仕上がりが丁寧、均一な商品をつくれる。紙は植物繊維でできており、取り扱いが難しい。安定した品質が担保できない」と見送った。フランスなど欧州から一部の高級スケッチブックは輸入しているが、大半の商品は国産だ。

「うちは先生も学生もみんな同じ図案スケッチブックを使っていますね。紙の質がいいからじゃないですか」(武蔵野美術大学の大学院生)。美大生にとってマルマンのスケッチブックは必需品といわれる。同社製の画用紙は、表面はソフトで、「しぼ」と呼ぶ凹凸が表面にほどよくあり、吸水性もよいため、水彩画に最適といわれる。表面も強く、消しゴムを使った際のけば立ちもほとんどないのが特徴。井口社長は「他の企業にはまねできない長年の技術の結晶。プロの画家の意見を常に聞きながら、毎年のように技術を更新している」と胸をはる。』
『2000年代に入ると、デジタル化の波が押し寄せた。紙は不要というムードが高まったが、いまのところ業績にはほとんど影響していない。「テレビ局でも収録現場でうちのスケッチブックを使ってもらうなど、いまも紙を必要とする職場は少なくない。学校でも手書きを重視している」という。

遅れていたグローバル化にも光明が見えてきた。実は19年末に中国の上海に現地法人を新設した。デジタル化の進む中国で、マルマンのノートは書きやすいという評価が高まり、引き合いが急増したからだ。「うちの生産、加工、製本は独自に磨き上げたアナログ技術。改めて日本のものづくりに自信が持てた」と話す。』
『井口社長は「紙は感性の世界だから、デジタルでは容易に表現できない。お客さんが『これでいいや』という文具はつくりません。『これがいい』、そして『これじゃないと』という文具を提供してゆく。大手ではなく、中堅・中小の会社が生き残るにはそんなこだわりが必要ではないでしょうか」と語る。コロナ禍で、オンライン上で仕事したり、飲み会をしたりするビジネスパーソンが増えたが、そこでも図案スケッチブックを使い場を盛り上げる人が現れている。創業100年の老舗メーカーはデジタルの世紀にも確かな歩を進めそうだ。

(代慶達也)』