「出世=昇進」ではない!テレワークが変えた出世の条件

「出世=昇進」ではない!テレワークが変えた出世の条件
同志社大学政策学部教授 太田 肇
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO6076575025062020000000/?n_cid=TPRN0002

 ※ 非常に重要な視点を、提示していると思われる…。
 「出世」ということだけでなく、「仕事ができるとは、どういうことなのか」ということの再定義をも、迫っているものと考えられる…。
 「テレワーク」「リモート・ワーク」は、コミュニケーションの「中身」を再考させ、「誰と、どういう人とつながるべきなのか」ということも、再考させることになったと把握される…。

『これまで「出世」というと、組織のなかで高い地位に就き「偉く」なること、つまり昇進とほぼ同意語だった。実際、昇進すれば人間の欲求や欲望の大半が満たされるといわれたものだ。承認欲求、自己実現欲求、権力欲、支配欲、金銭欲、物欲、等々である。しかもオリンピックの標語ではないが「より速く、より高く」昇進するほど高い水準で充足できた。だからこそ、多くの人が出世競争にしのぎを削ったのである。

 ところが近年は高い地位に就いても役得はないばかりか、以前ほど尊敬されたり称賛されたりしなくなり、権力を誇示することもできなくなった。一方で高い地位に就くほど何かあれば厳しく責任を追及されるようになり、私生活や人間関係を犠牲にしてまで出世しようという人が少なくなったのである。

 そしていま、出世の場である組織そのものの構造変化にテレワークが拍車をかけようとしている。』
『第1に、ネットワークで仕事をするようになって、社内の部署はもとより、会社の内と外とを隔てる境界もあいまいになってきた。

 第2に、それと並行して組織のフラット化が急速に進みつつあり、いずれ部長、次長、課長といった役職が消えるかもしれない。

 そうなると当然ながら「出世=昇進」は望むべくもない。かりに肩書は残されたとしても、権威も何もなくなるだろう。』
『では、昇進に変わる「出世」はどんなイメージか?

 従来の出世がタテ、すなわち垂直方向で偉くなることだったのに対し、これからの出世はヨコ、すなわち水平方向にキャリアアップしていくことである。もちろんキャリアは組織の内部にとどまらず、転職や独立などを含め縦横無尽に展開されている。』
『出世の尺度になるのは、一言でいうとどれだけ大きな仕事をしたか(しているか)である。これまでも業界内では、巨大プロジェクトを成功させた人、流行の生みの親、核となる事業を運営するリーダー、年商◯億の営業マン、辣腕編集者、スクープ連発の記者というような評判があったが、それがいっそう多くの業種や職種に広がるだろう。

 そこで問われるのは、いうまでもなく仕事の能力である。』
『ただし多くの場合、自分の力だけでは限界があり、スケールの大きな仕事をするためには、人を巻き込む力が重要になる。このようにいうと、前回取りあげた「こけおどし型」管理職とどこが違うのかと思われるかもしれない。

 しかし、それはまったく違う。旧来型組織では管理職の権限によって有無をいわせず巻き込むことができたが、組織内外のネットワークで仕事をするようになるとそうはいかない。プロジェクトに参加するかどうか、どれだけの貢献をするかは一人ひとりの意思にかかっているからである。』
『したがって、いかに魅力的な提案をして一人ひとりにうったえられるか、組織の内外から最適なメンバーを集めチーム力に結びつけられるか、そして事業やプロジェクトを円滑に運営していくリーダーシップがあるかどうかが問われる。イメージとしては管理職というより、マネジャー、ディレクター、プロデューサーに近い。』
『興味深い現象が起きている。コロナ禍でテレワークが広がりまだ2、3か月しかたっていないにもかかわらず、すでにネット上で数十人を結集して事業を立ち上げようとしている人があちこちに誕生しているのだ。私が知るかぎり、彼らはけっして組織のなかで出世した人たちではない。どちらかというと旧来の出世競争からは距離を置き、自分なりのビジョンや理想像を抱き続けてきた人が多い。
LIONのように、他社の社員を対象に副業する人を公募する企業もあらわれてきた。また政府は兼業・副業の時間管理を自己申告制にし、企業の責任を問わない方針を示した。企業に属しながらもネット上で新規ビジネスをはじめたり、外部のプロジェクトに参加したりする人はこれからさらに増えてくるだろう。副業が本業になるとか、将来のめどが立てば転職や独立する人も珍しくなくなるに違いない。

 くり返しになるが、出世の本来の意味は「世に出ること」である。テレワークが契機となって、ほんとうの出世を目ざす人に大きなチャンスがやってきた。』