「無限責任」と「有限責任」について

債務と責任の説明を先にしたが、ついでに「無限責任」と「有限責任」につい
て説明する。
先の説明では、債務を負っているということは、自分の財産を全て差し出す責
任があるということだ、と言った。
しかし、これは正確には「無限責任(限定の無い責任)」のことだ。通常は、
債務を負えば、その責任には限定が無く、自分の財産の全てを差し出すように責
任を負わされる。
だけど、それだといろいろ都合が悪いことも生じてきたんで、別途「有限責任
(限定の有る責任)」ってのも認めるようになったんだよ。民事の法律関係は、
対等な当事者の任意の取り決めによって規律していくというのが原則だから(私
的自治の原則)、予め当事者がイザとなっても一定の範囲でしか責任は負いませ
ん、ということを承知している(それで納得している)ならば、それでもよし、と
いう話しになる訳だ。
「有限責任」の代表例は、「株式会社」制度だ。お金を支払ってある会社の
「株式」を購入した場合、その会社の「株主」になるということだ。株主とは、
会社に資本を出資している人ってことだ。
株式会社は、法律的には「法人格(法が、自然人同様に、財産関係の処理の主
体たる地位を認めたもの)」を有し、会社名義で土地や建物を所有したり(登記
も会社名義でできる)、会社名義の銀行預金の口座を開設したり、会社名義で人
を雇ったり、会社名義でお金を借りたりできる。
もちろん、会社に手足があって行動できるものでもないから、実際には「代表
取締役(一般には、「社長」と呼ばれている)」が会社を代表して行為するわけ
だがな…。そして、上記の様々な会社名義の経済活動の元となる、資本を提供し
てる人が、「株主」という訳だ。
だから、会社が会社名義で所有している様々な財産の最終的な所有者は、実は
出資者たる「株主」だ、とも言える訳だよ。
まあ、大会社だと株主数は1000人を超えるのがザラだから、分散して所有
しているというのが実態だがな…。
こういう会社財産に対する、資本を出資した株主が有する権利を、「持分(も
ちぶん)」と言う。
それで、会社(及び、その有する財産)の最終的な所有者が株主だとした場合、
会社が会社名義で負った債務の責任は、どうなるのかという問題が生じてくる。
会社が10億の借金を負ったとして、会社財産が10億に足りない場合、株主の
個人的な財産に掛かっていけるのか、という問題だ。株主の中には、金持ちもい
るだろうから、会社債権者としては、その人の個人財産にも掛かっていきたいと
ころだ。
しかし、「それは、ダメです。掛かっては、いけません。会社財産だけに、
して下さい。」というのが、法の立場だ。
株式会社制度は、そういう風に制度設計してある。これを、「株主有限責任の
原則」という。
前述の持分の観点からは、出資してる株主とすれば、「もう出資してるのを、
止めたい。ついては、俺が出資した分を返還してくれ。」と言えるはずだ。
しかし、それだと会社としては、具合が悪い。その人が出資してる分も、会社
の事業運営に組み込んで使用中だ。無理して出資分を返還するとなると、借金し
たり、事業の再編が必要になったり、大ごとになる。
そこで、株式会社の場合は、出資者の持分返還の請求には応じないで、「株式
を他の人に売ってくれ。その売却代金で、出資した分を回収してくれ。」という
制度設計にしてある。
そういう制度設計も、株主有限責任の原則が成立していればこそ、可能となる。
もし、会社債権者が株主の個人財産にも掛かっていけるとしたら、誰が株主なの
かは、重大な利害関係だ。100万の個人財産しか持ってない人と、1億の個人
財産を持ってる人とじゃ、債権の回収の可能性が大きく違ってくる。そうであれ
ば、株式の自由譲渡制(株主の自由な交代)を黙って認める訳にはいかなくなる。

そもそも、「株式会社」制度は、植民地制度で悪名高いオランダの「東インド
会社」が始まりなんだよ。
当時のオランダは、スペイン・ポルトガルと激しく対立し、その中で東南アジ
ア(東インドーインドネシア)の香辛料貿易を勝ち抜くために、出資者を募り、
命知らずの荒くれ者を送り込んだ。だから、この東インド会社も単なる経済活動
を行うだけでなく、条約的な約束の締結権、現地での行政権の代行なんてものの
委譲も受けていたんだよ( https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%80%E6%9D%B1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E4%BC%9A%E7%A4%BE
だから、そういう成功するかどうかわからない、海のものとも山のものとも
つかない、ある意味博打的な事業の出資者を募る訳だから、無限責任を負わせた
ら応募するような人はいなかったんだろう。それで、最大限出資した額までは責
任を負ってもらうということで、出資者を集めたんだろう。
つまり、仮りに出資した額が1000万円だったなら、その額までは会社が保
有して会社財産になってるはずだから会社名義の債務の引き当てにしてもよい。
しかし、それを超えて株主は、自己の個人財産に掛かってこられることは無い
(有限責任)…、という風に制度設計した訳だ。
こういう仕組みにしとけば、出資に応ずる人としても、どこまで責任を負わさ
れるのか明確なんで、応じやすい訳だ。最大でも、出資した額がパーになってお
終いってことだ。それ以上の責任を追及されることは、無い…。
また、こういう仕組みにしとけば、出資者を多数募って、巨額の資本を集める
ことも可能となる。集めた資本の額が大きければ大きいほど、可能となる事業の
規模も大きくなるから、競争相手と戦うのも有利となる…。
そういう訳で、瞬く間に世界中に広まった…。上記のwikiによれば、オランダ
だけでなくイギリス、スウェーデン、デンマーク、フランスも東インド会社を作
ったようだ…。
東インド会社だけでは、ない。
カリブ海の西インド諸島(今の、キューバ、ケイマン諸島、ジャマイカ、ハイ
チ、ドミニカ共和国、プエルトリコなんか)の植民地経営のための、西インド会
社ってのも作られた( https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E4%BC%9A%E7%A4%BE
)。こっちの方は、サトウキビ農園の経営のために、アフリカから黒人の奴隷
を送りこむための奴隷貿易もやっていたという胸くその悪くなる話しだ(
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%AB%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2
)。

だから、「株式会社」という仕組みは、人が人を支配して金儲けする仕組み
(その一つが、植民地制度)、そのために巨額の資本を集める仕組みと切っても
切れない関係にあるんだよ…。
ヨーロッパ諸国だけの話しではない。日本も、満州支配のために「南満州鉄道
株式会社(満鉄)」ってのを作って、経営してた。
『満鉄は単なる鉄道会社にとどまらず、日露戦争中に児玉源太郎が後藤新平(初
代満鉄総裁)の影響を受けて献策した「満州経営梗概」に「戦後満洲経営唯一ノ
要訣ハ、陽ニ鉄道経営ノ仮面ヲ装イ、陰ニ百般ノ施設ヲ実行スルニアリ。」とあ
るように、それを具現するための組織であった。
満鉄は鉄道経営に加えて炭鉱開発(撫順炭鉱など)、製鉄業(鞍山製鉄所)、
港湾、電力供給、農林牧畜、ホテル(ヤマトホテル)、航空会社などの多様な事
業を行なった。後藤の発案で設けられた満鉄調査部は当時の日本が生み出した最
高のシンクタンクの一つであった。
後藤は「満鉄十年計画」を策定し、ロンドンでの社債の発行によって2億円を調
達、これらの事業の原資とした。
満鉄には、ロシア帝国から引き継いだ鉄道付属地での独占的行政権を与えられ
ており、地方部のもとで大規模な近代的都市計画(大連、奉天、長春のちの新京
など。)を進めた。上下水道や電力、ガスの供給、さらには港湾、学校、病院、
図書館などのインフラストラクチャーの整備を進め、満洲経営の中心となった。』
、というような話しだよ。
こういうことは、過ぎ去った昔の話しと言う訳でもないんだよ。
今現在、形をすこし変えて、似たようなことをやっているのが、中国だ。
スリランカのハンバントタ港の例が有名なんで、その手口を説明しとこう。
1、ハンバントタ港(アフリカーインド航路の要衝だ)の港湾開発事業を持ちか
ける。
事業計画も、必要な資金も、必要な労働者も、みんな中国が出すと持ちかける。
ちょっと聞くと、すごーくオイシイ話しのように聞こえる。(しかも、スリラ
ンカ側の関係者には、たっぷりと鼻薬が提供される。カネ ・利権、あるいは美女
も提供されたかも…だ)。
2、しかし、資金は無償で提供されるのではなく、貸し付けという形で提供され
る(この低金利の時代に、6.3%という結構な高利だったという話しだ)。
3、開発は計画通りには運ばず、港湾が完成して入ってくるはずだった収入(港
の入港料やなんか)も、予定通りには入ってこなくなる。
しかし、金利は容赦なく発生し、元本の返済の期限も容赦なく迫ってくる。そ
れで、債務の支払いの猶予の交渉を中国側と行うが、頑として減額・期限の猶予
には応じてくれない。途方に暮れて、泣きつく…。
4、すると、中国側から提案される。
港湾運営の株式会社を設立しよう。その株式を債務の抵当(かた)として、中
国に貸してくれ。借りる期間は、99年間としよう。それが、嫌なら元利を耳を
揃えて返済してくれ。
できないなら、99年間の株式の借り受けだ。どっちかを、選んでくれ…。
5、スリランカ側としては、元利はどうやっても返済できないから、泣く泣く株
式の99年間の貸し付けの方を選択する他はない…。
確かに、イギリスが香港を99年間租借した時のように、戦争をしたわけでも
ない。ハンバントタ港というスリランカの領土を、奪ったわけでもない。
港湾運営の株式会社の株式を、99年間借り受けただけだ。
しかし、実質は、ハンバントタ港の運営権を99年間握られる、ということだ。
中国海軍の寄港地になっても、文句は言えない立場に追いやられている(中国
側としては、ゆくゆくは、中国海軍の潜水艦の基地にする腹づもりだという話し
だ)。
だから、「100年遅れの帝国主義者」と言われているんだよ。
大看板の「一帯一路」に伴う高速鉄道の敷設計画も、上記のような策略の道具
に使われてる可能性がある。
現に、マレーシアの高速鉄道計画は、「マレーシア側に、利益があるのか疑問
である。」ってことで、マハティール復活に伴って、チャラにされた。
しかも、前首相のナジブは、汚職の疑いで起訴されたというオマケ付きだ。
世界は、中国の悪辣さに気付きつつあるんだよ。
アフリカ連合の本部の建設では、5年間情報を盗み続けたしな…。
全世界的に、非難の声が挙がっているんだよ。
そういう国際的な悪評判を見ての、トランプの中国叩きだぞ。
ちゃんと国際世論の流れを見ながら、行動してるんだよ。